096.あなたが此処へ帰ってくるまで、あなたの為に花を咲かせましょう
永遠とも呼べる時を生きる彼にとって、囚われる時間は刹那だろうか。
それとも、悠久にも感じる長い時間だろうか。
彼がどう感じるかはわからない。
わかるのは、彼がここにはいないと言う事だけ。
用意された箱庭の中で生きる以外の道がない私もまた、彼と同じ境遇なのかもしれない。
ただ、彼のように全てを拘束されているわけではないけれど、それでも私にとっては息をするのも難しい空間だった。
「2万年…か」
私にその判決内容を伝えたのは、気紛れではないのだろう。
途方もない時間を待つのではなく、諦めろと。
彼を忘れて、己がすべき事を思い出せと。
彼はここには戻らないのだと―――その現実を突きつけるために。
「途方もない時間ね」
縁側に座り、そう呟く。
内に宿る竜王の力は、宿主に不老を約束してくれる。
つまり、私は死ぬ事はあれど、老いる事はない。
本来であれば、今生の別れとなる悠久の時間も、私には関係ないのだ。
ただ、その長い長い時間をどう過ごすかが問題なだけ。
ふと、庭先に水仙が咲いているのが見えた。
ひっそりと身を隠すかのように咲くそれに、思い出が脳裏を過ぎる。
―――今日、水仙を分けてもらってね。折角だから、庭に植えておいたよ。
―――どこに植えたの?
―――さぁ、予想してみるといいよ。当たっていたら、何か用意しようか。
それは、優しいけれど切ない記憶の欠片。
隠れるように咲く水仙の場所は、私が予想した通りだった。
「…綺麗に咲いたわよ、惣右介さん」
そうだねと答えてくれる人は、ここにはいない。
彼にそれを伝えられるのは、もうずっと先の事だ。
それまでに、あの水仙は何度、花をつけてくれるだろうか。
「いつか…また、一緒に」
多くは望まないから、また一緒に、穏やかに過ごしたい。
今度こそ、その願いを伝えられる気がした。
藍染 惣右介 / 逃げ水