095.綺麗なものだけ見せなくても良いから、私の目を塞ぐ手を退けて

路地裏を進んでいた彼の背中がぴたりと止まる。
その背中に鼻先をぶつけ、思わずその名を呼んだ声は咎めるような色を含んでいた。

「もう、一体どうし―――」
「見るな」

彼の足を止める何かがあるのだろうと、その前を覗き見ようと身体を動かす。
それと同時に、伸びてきた彼の手が、私の目を覆った。
遮られる直前に見えた光景が、暗闇の視界の中に焼きつく。
モンスターではない、何か。
それは、夥しいアカを纏って、レンガの上に横たわっていた。
消えてくれない光景に、眩暈がした。

「このまま何も見ず、後ろを振り返って宿屋に帰れ」

いいな、と言い聞かせるような冷静な声が耳元で聞こえる。
こくりと小さく頷くと、彼は目を覆ったまま、私の身体をくるりと反転させた。

「行け」

トン、と背中を押され、走り出す身体。
背中で聞こえたモンスターのうなり声は、どんどん遠くなる。
やがて、完全に聞こえなくなるよりも早く、声が途切れた。
思わず止まる足。
振り向けば、望まないものまで見えてしまうと理解しながらも、背中が落ち着かない。
好奇心なのか、はたまた別の何かなのか。
振り向け、と言う闇色の声が聞こえた気がした。

「やめとけって」

身体が動こうとした瞬間。
ふわりと視界が黒に染まる。
目元がつつまれる感覚は、先ほど感じたものと全く同じ。

「見る必要ないから」

そう言って、彼は私の背を押して前へと促す。
振り向く事を許さず、ただ前へと。

「…そうやって、自分だけで全部やっちゃうんだね」
「………お前は…お前だけは、知らなくていい」

彼はそう言って、少しの隙もなく、私の隣を歩く。
年齢に似合わない成長し過ぎた心を守ってあげたいと思うのに、彼自身がそれを望んでいない。
全てを、自分で乗り切ろうとしてしまう。
それが少し寂しくて、けれどどうすればいいのかわからなかった。

「…エアリスは、綺麗なままでいて」

彼の小さな呟きを、私は聞き取ることが出来なかった。

エアリス / Crimson memory

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11.03.08