093.期待してしまうから、中途半端な優しさなんか見せないで

腕にかかっていた重みが消える。
消えたわけではないけれど、半減したのは間違いなかった。
視界を少しさえぎるほどのそれが消えて、クリアになったそこ。
見えるようになって初めて、そこに階段があると気付いた。

「…踏み外す」

隣から聞こえた声に顔を動かす。
普通の同級生に話すより少し高い位置に視線を運べば、声の主と視線が絡んだ。

「ありがとう」
「どこに持ってくんだ?」
「え?」

意外な言葉が聞こえて、思わず問い返す。
クラスの半分以上の数のワークブックを抱えていても、彼は重さなど感じさせずに歩いていた。

「階段を下りたところでいいよ。任されたのは私だから」

気にしないで、と言ったつもりだった。
部活に向かう途中の彼の邪魔をするのはルール違反。
ルールがなくても、頼まないだろうけれど。
それなのに。

「持ってく」
「…部活、行くんでしょ?」

言外にルールを感じさせるように、問いかける。
けれど、彼は相変わらずのんびりした歩調で階段を下りていた。

「ねぇ、流川。ありがとう。もういいから―――」

言葉半ばで彼が振り向き、思わず声が詰まる。

「こんな重いの持たせられねーだろ」

さも当然のように、彼はそう言った。
こんなことを言う人だった…?思わず、ぽかんとした表情で足を止める。
そうしている間に、置いてくぞ、と歩き出す彼。

「…ありがとう」
「もう聞いた」
「うん。でも…ありがとう」

彼の行動は優しくて、でも少しだけ胸が痛む。
この行動は、“私”だから?それとも、気紛れ?
そんな考えも確かにあるのに、嬉しいと感じる心もある。
自分の感情が、正と負をぐるぐると巡っていた。

流川 楓 / 君と歩いた軌跡

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11.03.03