091.例え遠く離れていても、君を思っています

ふとした時。
例えば、追い越して行った金髪の背中や、同じような背丈・年頃の男を見た時。
思い出すのは、遠い日本に残してきた、楽しくて優しい記憶だ。
そのほとんどに、これでもかと自らを主張する成樹がいて、忘れる暇もないな、と脳内で動く彼に苦笑する。
声を聞いてない、顔も見ていない。
そんな日々が続いて、こうして思い出に浸る事にも慣れてきた。
初めの頃こそ、思い出が優しくて、自分で決めた事なのに、ほんの少し寂しいと思ってしまっていた。
今ではチームに馴染んで寂しいと考える暇もなく、楽しく毎日を過ごせていると思う。
けれど、目標は変わらない。

「そろそろ終わりにするぞ」
「…っはい、ありがとうございました!」

チームの練習の後も、残って練習を続ける彼女に付き合ってくれるコーチ。
無理をさせてきた足に負担をかけないプログラムを組んでくれて…もう何か月になるだろう。
初めの頃は、こんな練習じゃ物足りないと思っていた。
けれど、足の調子が戻るのに合わせて、自然と増えていくトレーニング量。
気が付けば45分を走り続けられるまでに回復していた自分に気付いた時には、思わずコーチに抱き付いてしまった。
着実に、夢に向かって進んでいる。

「成長したな」
「そう、ですか?」

タオルで汗をぬぐい、パッと表情を輝かせる彼女。
この細い体のどこにこんな気力があるのだろうかと思う程に、一途な娘だ。
一時は女だと言う事が悔やまれてならないと思っていた彼だが、今は違う。
彼女は、自らの境遇を受け入れ、前へ前へと進んでいるから。

「その様子なら、帰国もそう遠くはないな」
「…はい」

彼女が目指すものを知っている。
彼女の夢を知っている。
だからこそ、応援せずにはいられない。

「向こうでも頑張ってんのか?」
「…当然ですよ」

疑う事すらない確信。
その横顔に、まったく、と苦笑する。
既に日が落ちたフィールドの真ん中で、じっと彼女が見つめる方角。
何処を見ているのかなんて、聞く必要もなかった。

「ほら、帰るぞ」
「はい」

また明日。
フィールドに向かって頭を下げ、彼女はそこを後にした。

Soccer Life

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11.02.28