090.君と僕との距離は、きっといつまでも縮まらない
何年も胸の中で温め続けた想いを受け入れてくれて、漸く彼女との距離がゼロになるのだとこれからに期待していた。
もちろん、そう感じた事も一度や二度じゃない。
でも…やっぱり縮まらない距離があると感じた事も、一度や二度じゃなかった。
「綱吉?」
「あ、ごめん。何かあった?」
「…ぼんやりしていたみたいだけど…大丈夫?」
彼女に顔を覗き込まれ、思わず仰け反って椅子の背もたれに背を埋める。
そんな俺の反応に気付いているのに、対して気にした様子もなく、彼女は白い腕を伸ばしてその手の平を俺の額に触れさせた。
「…熱はないみたいね。疲れてる?」
そう言って当たり前のように心配してくれる彼女。
この距離は、いつまでも変わらない。
ただそこに見える彼女の顔は、昔と同じ“姉”の表情だ。
言葉で伝えて、受け入れてくれて…心臓が止まるんじゃないかってくらいに、喜んで。
あの日からも、彼女は変わらず、俺の姉だった。
どんな俺も優しく受け入れてくれて、心配してくれて。
それも嬉しいはずなのに、それ以上を望んでしまう。
こうして、ふとした時に俺に触れる機会が増えているように感じるのは、子ども扱いされているからなんだろうか?
「…何でもないよ。ありがとう」
「………さっき、獄寺が探していたみたい。行ってあげたら?」
「そうなの?じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
そう言って、まるで逃げるように部屋を後にした。
「最近、綱吉は上の空になる事が多いわね」
「原因には何となく察しがついてるんじゃないか?」
部屋で昼寝を楽しんでいたリボーンが問う。
彼女はその言葉に苦笑を返した。
「今更甘えろなんて…無理な話だわ」
「そうだな。お前には敷居が高いが…それなりに努力はしてるだろ?」
「そのつもりだけど」
何となく、真意が伝わっていない気がする。
呟く彼女に、リボーンが溜め息を吐く。
「気付かないから、アイツはいつまで経っても半人前なんだ」
「百戦錬磨のイタリア男と一緒にしちゃいけないわよ」
「そんな男を蹴ってツナを選んだ女のセリフじゃねーな」
そんな事を言うリボーンの声は、どこか拗ねた色を含んでいた。
「ごめんなさいね」
「謝るなよ。でも、あんまりお前がそんな顔を続けるなら…俺も考えるぞ」
「あら…じゃあ、早く気付いてもらわないと大変ね」
「…とか言いながら、自信満々な顔だな」
「だって、彼は気付くでしょう?ボンゴレの血があるんですから。それに…」
それがなくても、気付いてくれるって…信じてる。
そう微笑んだ彼女の表情が幸せに満ちていて。
奪えるわけがねーな、と心中で吐き、ボルサリーノを深くかぶりなおした。
沢田 綱吉 / 空色トパーズ