089.きっと許される筈がないけれど、もしも許されるのなら

抱き締める腕が欲しい。
支えられる身体が欲しい。
この想いを伝えられる唇が欲しい。

そのためなら、俺が持つ全てを…いや、彼女以外の全てを、差し出しても構わないと思った。
彼女は俺の世界の中心じゃない。
彼女は―――俺の世界、そのものだから。





「人間になる魔法?」

長く生きているからなのか、他に何かの理由があるのか。
彼女は、俺の声なき言葉を理解した。
いや、考えを理解した、と言った方が正しいのかもしれない。
実際、俺の口からは「にゃー」と言う鳴き声が聞こえているのだから。

「どうしたの?何か不便?」
「にゃー」
「不便はないのにどうして?」
「にゃ」
「…まぁ、隠すような事でもないから答える事は出来るけれど」

傍から見れば、とても奇妙な光景だろう。
猫の言葉に一つ一つ答える女性と、語り続ける猫。
けれどここは彼女の家の中で、その会話を妨害する無粋者は存在しない。

「結論だけを言えば…出来るんじゃないかしら?ラウラに聞いてみないと何とも言えないけれど」
「にゃ!」
「はいはい。じゃあ、明日聞いてみるわね」

出来ると言は言わなかったけれど、完全否定でもない。
最後の魔女と親しい彼女が言うのだから、まず間違いないと思った。

「それにしても…訳は教えてくれないの?」
「…にゃー」
「誤魔化すのね、まぁ…いいけれど」

もし、その願いが叶ったら―――

その時の事を語る彼女の目は、哀しげで、何もできない猫の身体がもどかしい。
彼女が何かを抱えている事はわかっていても、それが何なのかが分からない。
彼女は支えてほしいと望んでいないけれど…それでも、俺が、彼女を支えたいと思った。
その哀しい目をする原因を知り、大丈夫だと安心させる事が出来たなら。

例え、信じていない神に見放されても、構わないとさえ思った。

シルビオ / 親愛なる君に捧ぐ

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11.02.24