087.例えばあなたが人形だったら、ずっと抱きしめていられるのに
「……………これ、何?」
「ティアナからのプレゼント」
誕生日祝いだって。
そう答えると、そこに固定されていたシルビオの顔がぐるりとこちらを向き、その目は驚きに染まる。
「誕生日!?」
「あぁ…確か、この花が咲く時期だった、って言う程度の話なのよ。正直なところ、正しい日は覚えていないの」
もう随分と前の事だから、と語る彼女には年齢の話はタブーだ。
いや、聞いたところで怒られないだろうけれど…それは虫の居所次第。
前に、見た目×5程度は、と呟いたのを聞いた事がある。
「で、これがプレゼント?」
「そう。中々可愛いでしょう?見つけた瞬間にこれだって思ったみたいよ」
クスリと微笑む彼女は、とても綺麗だ。
少なくとも何十…それこそ人が聞けば耳を疑うような年齢とは思えない。
それよりも、今は目の前のコレの話だ。
「何で…何で、猫のぬいぐるみ」
「可愛いからでしょう?私、猫が好きだし」
他に理由があると思う?と問う彼女に肯定の答えは返せない。
何故なら、ティアナと言う人間を知っているから。
「俺がいるじゃん!」
「最近はいつも人型で過ごしているから、時々このスタイルが懐かしく思うのよ」
そう答えた彼女が、シルビオの視界から可愛らしい黒猫のぬいぐるみを奪う。
奪うと表現するような乱暴なものではなく、寧ろ優しさに満ちた腕で抱き上げたと言うべきか。
血肉の代わりに布と綿で出来ている分際で、と思った心の声は、ギリギリのところで喉の奥に飲み込んだ。
「…っ猫に、なればいいんだな?」
「このぬいぐるみがあるし、別に無理しなくても…」
そう答える彼女の言葉の途中で、常時持ち歩いている粉の袋に指先を突っ込み、ほんの少しのそれを舐める。
彼女の薬はとても効果が高く、ゲルダのものとは必要な量も継続時間も比べ物にならない。
即座に縮む身体、馴染のある低い視点。
猫に戻った前足を見て、シルビオは溜め息を吐き出した。
戻ったぞ、と告げようと顔を上げた彼は、伸びてきた腕に言葉を失う。
ぬいぐるみに嫉妬したあの優しい腕が、自分を抱き上げた。
「ありがとう」
そう言って額の模様に口付ける彼女。
偶には猫もいいかもしれない―――そう思った気持ちには、心の中でしっかりと鍵をした。
「どうでしたか?」
「ええ、戻ってくれたわ」
「やっぱり!シルビオって絶対ぬいぐるみにも妬くと思ったんです!良かったですね!!」
「ありがとう、ティアナ。はい、協力してくれたお礼よ。ケーキで良かったのよね?」
「はい!!うわぁ…手作りですよね、ありがとうございます!!」
シルビオ / 親愛なる君に捧ぐ