084.あなたの声もぬくもりも、何もかもが遠い記憶
―――わかってくれ。
懇願にも似た声でそう言われれば、頷く以外に取るべき答えなど見つからなかった。
身重の自分では、遠征先で役に立つのは難しい。
寧ろ、邪魔になってしまうのが関の山だ。
それを考えれば城に残るのは当然なのだが…今までは距離に関わらず一緒に遠征に出ていた。
残ると言うのはこんなにも苦しいものだったか―――彼のいない日々を数えて独り、溜め息を零す。
「もうすぐひと月になるわね…」
夜着を重ね着して、濡れ縁で月を見上げる。
そろそろ満月になろうかと言う月が、優しく私を見下ろしていた。
「…どうか、ご無事で」
同盟国の様子を見に行くだけの、戦に比べれば危険の少ない遠征だ。
けれど、このご時世、いつ何時どんな事があるかはわからない。
彼が城を出たその日から、こうして毎日、彼の無事を祈り続けている。
城の留守を任されているのだからと、すべき事は完璧にこなしているつもりだ。
そんなに気を張るなと氷景に言われているけれど、それが私の役目なのだからと譲らない。
そうして過ぎていく毎日は、あっと言う間に過ぎていくと思っていた。
けれど、彼のいない時間はとても長い。
それが感覚だけのものだとはわかっている。
長いと感じてしまう自分に苦笑した。
彼の熱を忘れてしまいそうな自分にゾッとした。
早く、あの低く優しい声で名前を呼ばれて、強い腕に抱きしめられたい。
願いばかりが募り、しかしそれを裏切るように緩やかに流れる時間。
もう少し、もう少し。
自分を言い聞かせるのも、もう限界だった。
「政宗様」
今はただ、あなたに会いたい。
伊達 政宗 / 廻れ、