083.引き金を引くよりもナイフで傷つける方が、きっと
「相変わらず良い腕だな」
無心で撃ち続けていた腕を下ろすのと同時に、背中から聞こえた声。
驚くでもなく振り向いた私に、XANXUS様は何も言わずに傍らのクーラーボックスから一巻のハンドタオルを放り投げてくれる。
危なげなくそれを受け取った私は、長時間に及ぶ訓練で少し浮腫んだ手をタオルで冷やした。
「ありがとうございます。もうあの子の訓練は終わりましたか?」
「あぁ。今はベルが見てる」
簡潔な答えに、もうそんな時間か、と少しだけ驚く。
絶対に教える側の人間ではないと思われていたベルフェゴールだが、任せてみれば意外と調子よく進んでいる。
教え方が上手いのか、教えられる側に素質があるのかはわからない。
今頃はナイフの技術を仕込まれているのだろうと考えたところで、ふと、昔を思い出して表情が落ちる。
「ナイフ…か」
自嘲気味の笑みを零すも、その声は囁くような大きさだ。
しかし、隣にいたXANXUS様には聞こえたらしく、伸びてきた手が私の顎を取る。
グイッと強く顎を引かれ、少しだけ首筋が痛かった。
「何を考えてる?」
有無を言わさぬ空気。
答えなければ、ずっとこのままだと告げる眼の強さに、小さく息を吐く。
それを諦めと取った彼は、拘束していた手をおろしてくれた。
「昔の私は甘くて…ナイフが嫌いだったんです」
ナイフは、斬った感触が強く伝わる。
その点、銃は良かった。
引き金には、貫く感触が伝わってこないから。
ナイフを使えと言われないように、必死に銃の腕前を磨いた結果が、ここにいる私。
よくもまぁ、この甘さであの家の中で生きてこられたものだと思う。
苦笑交じりに話すと、XANXUS様はフン、と鼻で笑った。
その自信に満ちた笑みに、どれほど憧れただろうか。
「使えないのか?」
「いいえ。ベルほどではありませんけれど」
少なくとも、指導できる程度には使える。
そう答える私に、彼は事も無げにこう言った。
「なら何の問題もねぇ。俺はお前の銃の腕を買ってる」
XANXUS様の言葉は決して多くはない。
けれど、この人は私に必要な言葉だけは伝えてくれる。
だから、迷いも何もなく、彼と共に歩んでいける。
「あの子は…どうでしょうね。私のように甘くなければいいのですが」
「考えるだけ無駄だな」
「…無駄、とは?」
「俺が甘やかすように見えるのか?」
その不敵な笑みに、静かに笑い、いいえ、と首を振った。
けれど―――私は知っている。
この人はとても厳しいけれど、小さな身体の限界を見極めるのがうまい。
壊さないギリギリのところまで鍛えるからこそ、あの子は強くなるだろう。
いつか、遠い将来…あの子はきっと、私を超える。
「…楽しみ、ですね」
その日を想い、目を細めた。
XANXUS / Bloody rose