082.泣かないでと抱きしめた腕はとても細くて

「独りで涙を流さなくていいの。あなたは、誰かに頼って生きていていいのよ」

肩にのしかかる重圧、背中に絡みつく犠牲。
押しつぶされそうになった僕を、ただただ優しく抱きしめてくれる腕。
トランの英雄の一人である彼女は昔、僕と同じく重圧に立ち向かってきた彼を支えてきた。
お帰りなさいと言う笑顔にどれほど安心を貰ったか―――かつての仲間たちが、そう語っていたのを思い出す。

「恐くなったら立ち止まっていい。悩んだら振り向いていい。大丈夫よ。きっと、あなたが進む道は、いつか自分が胸を張れるものになっているわ」

とても細いこの腕に、どれほどの力があるのだろう。
腕力ではない、不思議な力。
それは、僕の中で渦巻いた不安や恐怖を、一瞬にして取り除いてしまった。
後に残るのは、まるで母の腕に抱かれたような安心感だ。
あぁ、これか―――仲間が語った“安心”と言う言葉が、理解できた。
彼女は存在そのものが優しくも高貴で、安心して身を委ねられる。

「…もう、少しだけ…」

どうか、このままで。
囁くように呟いた言葉に、彼女は「もちろん」と答えて僕の頭を撫でてくれた。

2主 / 水面にたゆたう波紋

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11.02.14