075.偽物の美しさなんて、いらないのに
「クルタ族が滅びたらしいね」
男性の静かな声に、僅かに反応を見せる女性。
淡い金の髪が、ふわりと風に揺れた。
「…そう」
「クルタの氷宝がどうなったのかは、噂ではわからなかったな」
「…当然でしょう?そもそも、氷宝の存在自体が広く知られているわけじゃないんだから」
「―――気になるかい?」
女性の表情の小さな変化を読み取ったのだろう。
彼がそう問いかけた。
彼女はじっとその目を見つめ、やがて諦めたように息を吐く。
「そうね。少しは…気になる。だって…氷宝が消えたら、私は偽物じゃなくなるもの」
遠い目を見せる彼女を、彼はおいで、と傍へと呼ぶ。
ゆっくりと歩いた彼女が彼の傍らへと辿り着いた。
「私は偽物だと思ったことは、一度もない。それは考えるなと言ったはずだな?」
「…ええ、ごめんなさい」
「わかればいいんだ」
彼はそう言ってから彼女の頭を撫で、部屋を出て行った。
一人になった部屋の中、彼女は静かに空を見る。
そしてふと、部屋に置かれた姿見に視線を向けた。
吹く風に靡く動きに合わせ、金の髪がアイスブルーへと変化する。
氷のような髪、そして、緋色の眼。
「ねぇ…“あなた”は生きているの?それとも…死んだの?」
鏡の中の“彼女”は、何も答えなかった。
??? / Ice doll