072.暗く深い海の底に、わたしを捨ててください
―――生きろ。
そう言い残したあなたの最期の言葉が、私を縛り付けて離さない。
「…潮風は傷に良くねぇよい」
海を見つめる私の背中に、マルコからの声が聞こえた。
私はただ、その言葉に首を振る。
「………どうして、かな。エースがいないのに…どうして、私は生きているの?」
世界の中心なんてものじゃない。
エースは、私にとって世界そのものだった。
それを失った私は、どうやって生きていけばいいのかわからない。
それなのに、彼は私に“生きろ”と言い残した。
「怒られたっていい。今すぐにでもエースを追いかけてしまいたい」
けれど、それは出来ない。
彼の最期の言葉が、私をこの世界へと縛り付けているから。
自ら命を捨てると言う事は、彼の最期の望みを叶えないと言う事だから。
「いっそ…誰か、私の背中を押してほしい」
甲板、船の縁に立つ彼女の前には、穏やかな海が広がっている。
能力者である彼女は、船と言う足場を失えば暗い海の底に沈むだけだ。
「…エースはそんな事は望んでねぇよい」
「知ってる…!だから、自分で飛び込めない。でも、私はエースのいない世界なんて生きていけないっ!!」
お願いだから、誰か私を殺して。
悲鳴にも似た切ない呟きに、マルコはその小さな背中を見つめて心を痛めた。
そして、今はもう、この世にはいないエースを想う。
「(エース…こいつにお前のいない世界を生きろって言うのは…地獄だよい…)」
何で一緒に連れて行ってやらなかった。
そんな考えすら、脳裏を過る。
エースのいない世界で、エースただ一人を想い、彼女は涙を流し続けた。
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ポートガス・D・エース / Black Cat