071.もし僕が此処から飛び降りたら、君は僕の残骸を拾ってくれるかな
「………“ここ”って、つまり飛行船の上から、ってこと?」
告げられた問いに、首を傾げながら「ここ」と床を指す。
頷くクロロを前に、彼女は短くため息を吐き出した。
「拾えと言われたら拾うけれど…この程度の高さで残骸になるの?」
「失礼だな。今の俺は念も使えず、ただの男でしかないんだぞ」
「そう言うのは、本当の意味で“ただの男”に成り下がってから言いなさいよ」
呆れたように肩を竦める彼女の反応を見て、彼は楽しげに笑う。
この言葉遊びのようなやり取りが、ただの時間つぶしなのだと言う事はわかっている。
要するに、彼に付き合う彼女もまた、暇を持て余しているのだ。
「まったく…あなた、私をタクシーか何かと勘違いしていない?」
占いで出た方角へと進んでいたクロロは、目の前に広がる海を見て迷いなくケータイを取り出した。
電話をかけた先はもちろん彼女。
海を渡りたいと言ったクロロに彼女が「はぁ?」と訳が分からない表情を浮かべ、代わりにヒソカが話を進めてしまったのは三日前の事だ。
今現在、ヒソカは珍しくも別件で彼女とは別行動。
クロロとの関係は、良い読書仲間として意気投合している姿を見ているので、全く気にしていないらしい。
「いや、タクシーよりも遥かに役に立つ」
「…私は道具じゃないのよ」
「もちろん、わかってるさ。感謝してるよ」
この笑顔に落ちる女性は、世の中には星の数ほどいるだろうなと納得するも、彼女は無関心だ。
はいはい、と彼からの感謝を聞き流し、笑顔を受け流す。
もちろん、そんな反応をクロロも気にしない。
「しかし…流石の俺も、この高さから落ちたら危ないだろうな」
「そう?もう少し行けそうな気がするけれど」
「…お前は俺を化け物か何かと勘違いしていないか?」
「違うの?」
「こう見えても、お前と同じ生き物だ」
「あら、私と同じなら十分化け物よ。だって私、この高さなら念なしに落ちても死ぬとは思わないもの」
ケロッと言ってのける彼女に、ゾルディックは身体を毒に慣らすだけではなく物理的にも半端なく鍛えているのか、と呆れた。
彼女の凄い所は、嘘でも冗談でもなく、事実を述べていると言う事だ。
「ま、もしここから落ちて死ぬようなら…その程度の男だったのねって思いながら骨は拾ってあげる」
「…そんな風に思われるなら絶対死ねないな」
「死のうと思っても無理だから大丈夫よ」
クロロ=ルシルフル / Carpe diem