069.名前を呼んで、抱きしめて、それだけで幸せだった

縁側のほのぼのとした日差しの中、何かに長考する背中。
数刻前にも全く同じ光景があったな、と小さく笑い、気配と足音を潜めて近付いていく。
戦場では青に包まれた、神以上に信じ、頼れるその背中は今、とても無防備な姿を晒している。
その理由はきっと、ここが居城だからと言うだけではないと思いたい。
少なくとも、敵がここまで近付いたなら、彼は間違いなく消した気配に気付くだろうから。

「政宗様」

悪戯に声を弾ませ、とん、と背中に抱き付いてみる。
自分としては抱きしめたつもりでも、体格の差や二人の姿勢を見ると“抱き付いている”と言う表現が正しい。
腕が回る一瞬前に気付いたらしい彼は、それほど大きく驚いたりはしなかった。

「…なんだ、気付いてしまったんですね」
「香の匂いがしたからな」
「あぁ、なるほど」

気配は消したけれど、敵国に忍んでいるわけではないのだから香りはそのままだ。
これだけ近付けば、風向きに関わらずその香りが届いても何ら不思議はない。
納得した彼女は、そのまま彼の肩越しに手の中の物を見た。

「増築なさるのですか?」
「あぁ。手狭になってきたからな」
「…この際ですし、田畑には使えない土地に新築しては?丁度先日建てた蔵が満杯になったと聞きましたし…」
「…西の丘にそう言う土地があったな。…確かに、建てれば土木の連中に大きな仕事を任せてやれるか」
「棟梁を城に呼んでおきます。彼らの予定もあるでしょうけれど、きっと最優先にしてくれるでしょうから…三日後でどうですか?」
「頼む」

とんとん拍子に話が進み、まとまったところで「ところで」と彼が声を改める。

「いつまでこうしてるつもりだ?」
「…気が済むまで?」
「まだ、気は済まないのか?」
「いえ、十分で―――」

言葉半ばで腕を解かれ、そのまま手首を掴まれ彼の前へと引っ張られる。
座る彼の膝の上に上半身を乗り上げるような姿勢になったところで、くるりと身体を反転させられた。
そして、彼の目を見上げるよりも前に、安心できる腕の中へと閉じ込められる。
全てを守られていると実感できる優しいそこに、言葉も忘れて瞼を伏せた。

「政宗様」
「…ん?」
「………幸せです」
「…あぁ、そうだな」

あたたかい感情を共有する時間が、いつまでも続けばいいと思った。

伊達 政宗 / 廻れ、

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11.01.27