068.君はもう何処にもいなくて、僕は霞がかった影に手を伸ばす
これが夢で、手を伸ばした先に君がいないと頭の片隅で理解していた。
それでも、伸ばさずにいられない、この感情は何だろう。
たぶん―――これが、彼女が“より多くのものを見ろ”と言った内の一つ。
まだ、感情の理解には遠い。
目障りな草食動物を片付けながら、退屈に過ぎていく日々。
彼女一人がいないだけで、世界はこんなにもつまらないものになった。
「…この貸しは大きいよ」
学ランの中から取り出したピルケースを見下ろし、そう呟く。
本当なら今すぐにでも彼女の元へと飛んでしまいたい。
彼女が過ごす場所の情報は、既に僕の手の中。
行こうと思えばいつでも会いに行ける。
それなのに動かないのは、彼女との約束を果たしていないから。
凛として前を見据える彼女との差は大きい。
あの約束の三日後。
彼女は何も言わず、並盛から去った。
沢田綱吉からそれを聞いた時には、視界に入る全てを咬み殺してしまおうかと考えたほどだ。
約束しておきながら、何も言わずに消えた彼女に対しての苛立ち。
その行動の意味をまともに考えられるようになるまでに、一週間はかかった。
結論は―――彼女の考えがどうであれ、関係ない。
「僕は僕の思うようにするだけだ」
その結論に至りながらも、今尚彼女に会いに行っていないと言う矛盾。
結局のところ、僕は彼女の言葉に従っているのだ。
「大人って何歳の事だろうね」
肩で毛づくろいをする小鳥に向かって問いかける。
答えがないけれど、それがいい。
「あれから1年か…」
彼女がいるイタリアへと繋がる空を見上げ、小さく呟いた。
雲雀 恭弥 / 黒揚羽