067.その声を聴きたくなくて、耳を塞いだ

―――何故敵であるならば、私をお斬りにならないのですか!?
―――どうして、裏切ったんですか?


脳の中で繰り返される声。
彼女たちの物だけじゃないけれど、強く印象に残るのはやはり、二人の声。
直接、戸惑いの声と表情を向けてきたのが彼女たちだったからなのだろう。
延々と、飽く事無く繰り返される声に、瞼を伏せる。
間違っている―――記憶の彼女らは、現実ではない事まで語り出す。

弱い人間であるつもりはないけれど、誰しも弱い部分は持っているもの。
気分が高揚する時もあれば、逆に落ち込む時だってある。
そう言う時に重なってしまうと、現実と妄想の境界が曖昧になってしまうのだ。
そしてそれは、時に自分自身を傷付ける。

脳内の声から逃れるように、両手で耳を塞ぐ。
聴覚として音を拾っているわけではないと理解しながらも、そうして身を知事める事しかできなかった。

「恐れる事はないよ」

寝台にうつ伏せ、身を小さくする彼女の頭に、ふわりと重ねられた手。
緩やかに髪を撫でるそれに、彼女はゆるりと顔を上げた。

「君の中にいる彼女らは現実じゃない」

耳を塞いでいるのに、すとんと入り込んでくる声。
彼はただただ穏やかに微笑み、そして語る。

「何も気にしなくていい。考えなくていい。君は…ここに居ていいんだよ」

居場所は、ここにある。
その言葉を皮切りに、思考が深くへと沈んだ。
何の力も使わない彼の声程に、力を持つものはないと思う。
彼女の心を守り、慈しみ、そして…支配する力。

眠る彼女を見下ろし、藍染は苦笑した。
本質的な所は誰にも劣らない強さを持っていると言うのに、精神面に波がある。
時折こうして気分が落ち込むらしい彼女を知る人物は、どれほどいるのだろうか。

「…君は本当に…弱いね」

そう呟くのに、髪を撫でる手はどこまでも優しい。
彼はその手をそのままに、変わる事のない空を見つめた。

藍染 惣右介 / 逃げ水

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11.01.25