066.全てが終わったと言うのなら、どうして貴方は目を背けるの
整然と並ぶ墓石の前で、彼女は静かに黙祷した。
捧げた花束が吹く風に揺れる。
目を開いた彼女はやがて、傍らに佇む骸へと視線を向ける。
彼の心中が複雑だと言う事は、十分すぎるほどに理解していた。
「骸」
「…わかっています。ちゃんと…彼らを弔う気持ちはある」
「そうじゃなくて…。どうしてあなたがあんな事をしてしまったのか、しなければいけなかったのか…ちゃんと、考えて」
咎めるようにそう言うと、骸は僅かに目を細めた。
彼自身、譲れない部分があるのだと察するのは難しくない。
「今更、ですよ。全て、終わった事です」
瞼を伏せる彼に、そうじゃない、と首を振る。
違うのだ。
終わった事だから、今更だから…そうじゃない。
「お願いだから、過去の自分の行動と向き合って。…私との未来を望むのなら」
「………」
「これはあなたの為だけじゃない。私の為、私たちの為なの。後悔を残せば、いずれ必ず歪が生まれる。傍にいたいと思うから、言うの。だから…傍にいたいと思ってくれるなら、彼らから目を背けないで」
ここに眠るのは、共に笑い、共に怒り、共に歩んだ…家族同然だった人たちだ。
それを奪った人と今、歩き出そうとしている。
覚悟だけでは解決できない問題。
彼女にとっても骸にとっても、けじめが必要だった。
「………そう、ですね」
長く沈黙した骸が、ぼそりと口を開く。
先ほどまでの、納得していないけれど彼女の為とここに来た彼ではない。
その変化は、表情から察する事が出来た。
「僕には、目指すものがあった。譲れないものがあった。けれど、それが…他でもないあなたを傷付け、追い込んだ。彼らに対しての謝罪が難しくとも、あなたになら出来る。―――申し訳ない事をしたと、思っています」
これが、彼にとっての最大限の謝罪だったのだろう。
傷つき、追い込まれていたのは彼自身も同じ。
他の方法を選ばなかったのではなく、選べなかったと言う事実もある。
真っ直ぐ目を見つめて紡ぎだされた言葉に、彼女の頬を涙が伝った。
それを隠すように、そっと骸の胸に額を寄せる。
―――恨むなら、彼だけじゃなくて私の事も恨んでほしい。
ごめんね、と言う家族への声は、音にならず彼女自身の中に溶けた。
「…ありがとう」
「…礼は要りません。僕が受けるべき言葉は、それじゃない」
そう否定した彼は、それ以上何も言わず、彼女の背を抱いた。
彼の胸に身体を預けていた彼女が知る事はないだろう。
強く抱きしめていた彼が、並ぶ墓に向かって無言の黙祷を捧げていた事を。
六道 骸 / 黒揚羽