064.大人はどうして気付かないの、こんな近くで命が失われているのに

気付かないのか、気付こうとしないのか。
倒れていくのは敵ばかりではない現実。
今は敵味方と分けられてしまっているけれど、元を辿れば同じ人間である事に何ら変わりはない。
そんな人々が、凶刃に倒れていく時間。

「何で―――戦争は続くんだろう」

大将として後方に控えてほしいと言われ、彼は戦場を見渡せる位置で拳を握りしめていた。
皮手袋の下で、ソウル・イーターが嬉々としているのを感じるけれど、それを咎める気にはなれなかった。
ソウル・イーターは自らの欲望に従い、行き場のない魂を食らっているだけ。
自らの欲のために、誰かの命を奪っているわけではない。
おこぼれにあずかっている状況自体も、普通であれば嫌悪すべきなのだろう。
しかし、目の前で繰り返される光景の方がよほど、心を急き立てられる。

「こんなの…間違ってる。続けちゃいけないんだ…っ」

呻くように呟いたところで、皮手袋越しにソウル・イーターを包み込む手。
顔を上げれば、哀しげな表情の彼女がいた。

「ええ、間違っている。だから…終わらせましょう。一日でも、一秒でも早く」
「…うん」
「あなたは、私に何を望む?」

彼女は自らの力が解放軍の助けになると理解し、取るべき行動を問う。

「被害は最小限に、効果は最大に。…頼むよ」

ぎゅっと彼女の手を握り、そして解放する。
任せて、と言い残した彼女が、詠唱に入った。
足元から滾る魔力が彼女の髪を揺らす。

「我が声を聞け―――リヴァイアサン」

彼女の声に応え、前方に描かれた魔法陣から姿を現す水神。
長い身体を揺らして空へと舞いあがり、そして大津波を引き起こした。

「我が友に赤き守りを―――カーバンクル」

続けて唱えた召喚により、味方の兵士らに守りが施された。
味方だけを残して人々を押し流していく津波。

「…ありがとう」

隣に立つ彼がそう言ったのは、エルフの村の一件の時よりも効果が弱いと気付いたからだろう。
押し流された敵も、ただ流されただけで命を奪われるほどではないはずだ。

「あと一息…頑張りましょう」
「そうだね。…出るよ!」

彼の声により、控えていた一軍が一斉に動き出した。

1主 / 水面にたゆたう波紋

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11.01.21