059.あなたの背中の向こうにある夕陽が、あまりに鮮やかで

学校は小高い丘の上にある。
足取りの重い朝、緩やかな坂を進まなければならないと言う、学生にとってはやや不満の多い通学路。
帰りはもちろん下り。
スピードを出し過ぎた自転車通学の生徒が、坂の下で先生に止められて注意を受けている姿は、そう珍しくない。

「こっちを歩けよ」

こうして、御子柴くんに送ってもらうようになって、何度目だろうか。
不意にそう言って腕を引いた彼に、私は首を傾げた。
促されるままに彼との立ち位置を変えたところで、彼のすぐ脇を猛スピードの自転車が下っていく。
その自転車を見送り、漸く御子柴くんの行動の意図を知った。

「ありがとう」
「気にすんな」

こう言う所は、素直に良いなぁと思う。
高校生とはいってもまだまだ精神面が子供の男子も多い。
こんな風に、身近な安全を考えてくれる人は、そういないと思う。
きっと、お姉さんたちの教育も良かったんだろう。
…本人が聞いたら嫌な顔をするだろうけれど。

ふと、彼越しに見えた夕日がとても綺麗で、思わず足を止める私。
止まらなかった彼が二・三歩進めば、町並みに沈む夕日が完全な姿を取り戻す。

「どうかしたのか?」
「今日は夕日がきれい」
「あぁ…いつもより鮮やかだな」

そう言って、私と同じ方向を見る彼。
彼の赤い髪の端が夕日に透け、まるで炎のような赤に染まる。
その光景に目を奪われていると、視線を感じたのか、御子柴くんが振り向いた。
逆光になるけれど、その表情が分からないほどではない。
夕日の赤によって、より引き立つ彼の“赤”。

「どうした?」
「…ううん、何でもないの」

気にしないで、と小さく微笑むと、ゆっくりと歩き出す。
思わず言葉を失うような素敵な光景だったけれど、これは私の心の中に秘めておこうと思う。
小さな秘め事が少し楽しくて、ふふっと笑った。

「夕日が好きなのか?」
「んー…うん。赤が好き」

少し悩んでから彼の質問に答えた私は、機嫌よく笑顔を浮かべて前を向いていた。
だから、隣を歩く彼の頬が赤らんでいた事なんて、知る由もなかったのだ。

「(綺麗な光景だったなぁ…)」
「(赤って…俺の事じゃねぇってのに何でこんなに動揺してんだよ…!)」

御子柴 恭介 / 君恋

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

11.01.14