057.いつかあなたは僕の手を離して、何処かへ行ってしまう

手を繋いで歩くなんて、初めての体験だった。
繋いでと言うよりは引かれてと言う方が正しいかもしれない。
たまたま見た目が同じ年の頃の人間の子供が、母親に手を引かれて歩いているのを見た。
何となく、ちょっとした出来心で伸ばした手。
母さんは驚いたように自分を見てきたけれど、視線の先を見て納得したように微笑む。
妖怪の時よりもあたたかく、そして柔らかい手が僕の手を握ってくれた。

人間の『高校生』をしている母さんは、見た目では子供がいるようには見えない。
道行く人が僕たちを微笑ましそうに見ているけれど、それはきっと親子を見る目じゃない。
正真正銘、母さんの子供だけど、この人間界では僕は母さんの『弟』だ。
心中、複雑じゃないと言えばうそになる。
だけど…母さんの傍にいたいと魔界を飛び出してきたのは僕だから。
人間として父さんと添い遂げるためにも、僕は『弟』じゃなきゃいけない。

「どうしたの?」

自然と俯いてしまっていたからだろう。
母さんが足を止め、僕の顔を覗き込んできた。
金ではない亜麻色の髪が、ふわりと風に揺れる。

「…何でもない!」
「そう?」

それならいいけど、と歩き出す母さん。
無理のない速度で手を引かれ、並んで歩く。
いつか、この手を離さなきゃいけないんだってわかってる。
人間界的に見れば僕はまだまだ子供だけど、魔界ではもう親離れしていても不思議じゃない。
こんな風に、甘えてばっかりじゃいられないんだ。
わかってるけど―――この手を、離せない。

「そんなにしがみつかなくても置いて行かないわよ」

クスクスと笑い声交じりに母さんがそう言う。
そんな声に応える代わりに、ギュッとその手を握りしめた。

もう少し。
もう少しだけ―――この手に甘える事を許してほしい。
心の中で、そう告げた。

ジュニア / 悠久に馳せる想い

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

11.01.12