055.わたしは貴方のいる世界を愛し、そして憎んだ
ふと、閉じていた目を開くセフィロス。
周囲には、人はおろか、動物の気配すらない。
セフィロスの発する威圧的な空気を読み、近付いてこないのだろう。
それを知ることのできない人間たちすらも近付かないのは、ここが放棄された土地だからだ。
昔、一度だけ来た事のある土地。
あの時は神羅の任務としてそれを受けた。
隣にはコウがいて、敵意を持たない多くの動物たちが彼女に興味を示していた。
彼女は穏やかで優しく、それでいて寄りかかりたくなってしまうような凛とした強さも持っていた。
動物たちが彼女に懐くのは、空が青いのと同じくらいに当然の事だったのだろう。
草木は荒れ、小川は涸れ―――多くの命の失われた土地。
それに対して、何らかの感情を抱くことはなかった。
けれど、かつて彼女が背を預けたその場所が朽ちているのを見ると、複雑な感情が込み上げてくる。
「…コウ…」
自分の隣に彼女はいない。
そしてこの場所も、放棄され忘れられてしまった。
セフィロスは、自身の存在すらも踏み躙られたような感覚を抱く。
まるで、自分には穏やかな記憶すらも許さないとばかりに。
セフィロスは、静かに自嘲の笑いを零した。
彼女を置いてきたのは自分だ。
それなのに今、何よりもその事を悔いている。
まるで、片翼を失ってしまったかのようだ。
世界を崩壊へと導くマテリアを手に、空を仰ぐ。
自分は今、この世界を壊そうとしている。
「コウ―――」
止めてほしいのか、背中を押してほしいのか。
彼女に何を望んでいるのかはわからなかったけれど、ただ―――会いたいと思った。
セフィロス / Crimson memory