053.私の前から何もかもが無くなって、私だけ置いていかれた
彼女がいた場所、代わりのように残された羽根に手を伸ばす。
炎のように揺らめくそれに、熱さはない。
「シルビオ…」
ティアナは、切なすぎる背中に、声をかける事を躊躇った。
呟いた名前は、きっと彼の耳には届かなかっただろう。
「おい、ティアナ…何がどうしたんだよ?」
事情が分からないのは皆同じ。
その中で、今まさにその場に到着したゲルダが呆然と佇む彼らを一瞥した。
そして、彼女の姿がない事に気付き、ハッと蒼褪める。
「遅かった、の…?」
呟く声に、シルビオが敏感に反応した。
炎と共に消えた彼女。
残された唯一の羽根すら、彼女のものではない。
彼女は、何一つ形として残す事無く、シルビオの元から消えた。
待つと決めた、信じると決めた。
けれど、納得できない自分がいる。
「いつもいつも…俺を置いて行く」
彼女を繋ぎとめる何かがほしい。
確かにここにあると実感できる、そんな何かがほしい。
彼女が消えた日常を、ただただ平穏に過ごす中で、シルビオはその事を考え続けていた。
何の興味もなかった彼女の本棚には、多くの文献がジャンル幅広く揃っていた。
本は好きじゃない―――けれど、人に聞く知識など高が知れている。
何かがあるはずだと、生まれて初めて本を手に取った。
彼女が消えてから1年ほど経った頃だろうか。
シルビオは漸く、その本を見つけた。
不死鳥について書かれた一文を読み、これ以上の方法はないと悟る。
「もう二度と、置いて行かせない」
古く草臥れた紙面に視線を落とし、決意を秘めた声でそう呟いた。
シルビオ / 親愛なる君に捧ぐ