052.どうか、ほんの少しだけで良いから、わたしに返してください

「と言うわけで、今日から二日、紅を借りるから!」

笑顔で元気よくそう言ってのけた悠希に、冷めた視線が向けられる。
その視線の主は政宗で、2割ほどは紅の物も含まれているだろうか。
尤も、紅の場合は悠希のする事だからと、既に諦めている節がある。

「と言うわけでも何も、一切説明がなかったと思うんだが?」
「うん。色々とあるの。とりあえず、私が伝えたいのは紅を借りるって事だけ」
「………」

悠希との付き合いはそう長くはない。
だが、何となく…今の悠希に説明を求める行動は無駄だと悟る。
確認するように紅に視線を向けると、彼女は深く頷いた。

「さて!そうと決まれば早速出発よ!」
「その前に準備でしょう。…そんな恰好で行くつもり?」
「それもそうね!」

悠希に腕を引っ張られ、紅が退室する。
それを見送った政宗は、やれやれと溜め息を吐き出した。

「氷景。頼んだぜ」
「あぁ、わかった」

本当なら自分が着いて行きたいけれど、悠希がそれを拒むだろう。
政宗の言葉に頷いた氷景が、その場から姿を消した。





「結局、息抜きがしたかっただけなのね」
「まぁ、そうとも言うわね!」

幸村よろしく団子を頬張る悠希が、あっけらかんと答えた。
何となくそうだろうとは思っていたけれど―――紅は小さく息を吐く。

「紅だって町中をゆっくり歩く機会なんて、そうないでしょ?楽しみなよ」
「そうね。甲斐の町をゆっくり歩くなんて、そうそうできる事じゃないわね」

険悪とは言えない関係ではあるけれど、同盟国ではない。
紅の立場からすれば、微妙な関係の甲斐に、そう足繁く通うわけにはいかないのだ。
悠希の強引さがなければ、こんな時期に来たりはしなかった。
そんなことを考えていた紅の目がふと止まる。

「ん?紅、何を見てるの?」

気付いた悠希が彼女の視線の先を辿った。
そして、あぁ、と納得する。

「政宗様に似合いそう」

品の良い藍染に手を伸ばした紅は、小さくはにかんでそう呟いた。
布地も上等で、彼に渡しても問題はなさそうだ。
真剣に品定めをする紅の隣で、悠希がやれやれと肩を竦める。

「どこに行っても筆頭、ね。まぁ、人の事は言えないけど」

無意識に探すのは自分ではなく夫に似合うもの。
こう言う所は同じだな、と苦笑し、紅の隣に並んだ。

「この帯が合うんじゃない?」
「あ、本当ね。悠希のそれにはこっちが合うと思うわ」
「…うん、流石。イイ趣味してるわ」

親友 / 廻れ、

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11.01.07