051.真っ白な紙に、青い絵の具で空を描きたい
―――ボスに空は似合わない。
そう言った部下に、思わずと声を上げた。
普段ならばきっと気にしなかった事だけれど、XANXUSの事となれば話は別だ。
「私はそうは思わないけれど?」
「す、すみません!!!」
「あぁ…別に怒っているわけじゃないわ」
部下の反応を見て、雑談に口を挟むべきではなかったと悔やむ。
素直に通り過ぎていればよかったのだが…仕方ない、と言うのが彼女の意見だ。
怒っていないと言う言葉と口調、彼女の眼差しの穏やかさを見た部下たちは、とりあえずホッと安堵する。
「あなたたちの言う空と言うのは…大空のリングの事よね」
「…はい。………あの…」
「感じ方は人それぞれだから構わないわ。ボスに告げ口したりしないから、安心して」
そう言うと、彼女はそれ以上説明する事無く、その場を後にした。
そうは思わないと言った彼女だが、その理由は教えてくれなかった。
残された部下たちは、彼女が何故そう思うのかと言う議論へと話題を移していく。
彼女にとっては、XANXUSは空そのものだ。
もちろん、澄んだ青空が彼に似合うかと言われれば、苦笑と共に沈黙する道を選ぶ。
XANXUSは彼女にとって、こうありたいと願う存在だった。
類稀なる非凡さで後継者の候補に選ばれた彼女に、周囲は決して優しくなかった。
望んでもいない後継者の候補と言う立場に委縮し、けれどその期待を裏切らぬよう働き―――気が付けば、身体は家に決められた役割によって雁字搦め。
例えそれが力による制圧であったとしても、人の上に立つ資質と度胸を持つXANXUSに、憧れずにはいられなかったのだ。
今では空を超えて宇宙にすら飛び出せる時代。
しかし、かつて人は、空へと手を伸ばした。
彼女にとって、XANXUSはそう言う存在だった。
「空と言っても…あの人はきっと、夜の空ね」
「何の話だ?」
クスリと笑ったところに、別の人間の声が加わる。
気配を消していたわけではないので、彼女も気付いていた。
それでも口にしたと言う事は、聞かれて困る内容ではないと言う事。
「あなたは昼よりも夜の空だと思っただけです」
「…ヴァリアーの人間に昼が似合うわけがない」
「それもそうですね」
ボンゴレの繁栄の傍らで、影のように闇に生きる部隊だ。
太陽の光が似合うはずもない。
そう自己完結すると、改めてXANXUSへと向き直る。
「お帰りなさい、ボス。久々の任務は楽しめましたか?」
「楽しめるか。骨のねぇ連中ばかりだ」
「あら…それは申し訳ありません。次は考慮しておきます」
そう言って会話を終えた彼女は、ふとXANXUSを見た。
ソファーに腰掛ける彼との距離は僅か1メートルと少し。
少しの沈黙の後、彼女はその距離を縮め、そっと手を伸ばす。
それに気付いたXANXUSは、行動の意味を理解しないまま、その手を掴んで自分の隣へと引き寄せた。
ゼロになる距離。
「未だに信じられない時があります。この手が、あなたに届くなんて―――」
昔は、想像もしなかった。
彼のようにありたいと願う事をやめたりはしなかったけれど、この場所を掴みとれるとは思わなかったのだ。
小さく笑う彼女の心は、彼には到底理解できないものだろう。
けれど、それを邪魔するわけでもなく、そっと肩に頭を載せる彼女を振り払うわけでもなく。
好きなようにさせる彼を見たら、部下たちはどうするだろう、と考える。
「出来るなら、ずっと傍に」
「…好きにしろ」
「…ありがとうございます」
XANXUS / Bloody rose