048.白い雪が降る夜、わたしは小さな秘密を隠した
喉に込み上げた鉄臭さに、思わず腰を折った。
膝から雪の上に崩れ落ち、ごほごほと咽る。
白の上に散る、紅。
「―――…」
発作的なそれが治まると、そのまま傍にあった木の幹へと凭れかかる。
濡れた唇を拭った指は、やはり赤かった。
「…シャンクス…」
シャンクスだけではない。
仲間は散り散りに逃げており、一刻も早く合流地点まで急がなければ。
まさか、こんな辺鄙な冬島で海軍と鉢合わせるなんて、誰が想像しただろう。
運が良かったのは、その海兵がやや短絡的だったこと。
運が悪かったのは、海兵が能力者だったこと。
しかしそれも、私にとっては幸運―――そのはずだった。
「見つけたぜ!!!」
「!」
声が聞こえると同時に、背を預けていた木が中ほどから切り倒された。
転がるように追撃を避け、雪の上に着地したところで、海兵を睨み付ける。
「“止まれ”ッ!!!」
声に力を載せる。
海兵の動きが止まり、その隙を見逃さずに腰のダガーを逆手に引き抜き、海兵を斬った。
致命傷には浅いと知りながら、その場から走り出す。
「―――はぁっ…ぐっ…!」
息切れの所為ではなく、喉が熱い。
込み上げるそれを堪え、雪の上を蹴る。
一歩間違えば凶器にもなりかねない吹雪の中を、ただ目的地に向かって走った。
咄嗟に口元を押さえた手袋が赤く染まり、チッと舌打ちしてそれを投げ捨てる。
原因は、何となく気付いている。
休みたいと訴える足を叱咤して、走り続けた先。
探し求めた赤を見つけた。
「シャンクス!」
「!無事だったか、良かった…!!」
走ったままの勢いで抱き付いたけれど、彼は難なくその身体を受け止めた。
無事を確認するように彼女の頬に触れたシャンクスは、その表情を見て眉を寄せる。
「お前…怪我でもしたのか!?」
「ううん、大丈夫。返り血だから」
気にしないで、とシャンクスの腕を解いた。
息が上がっているのは、走ってきたからだと思い込んでいるだろう。
気付かせてはいけない。
疲労からではない汗を拭い、シャンクスに笑顔を向けた。
シャンクス / Black Cat