047.長く伸びた髪、それはまるで鎖のように重くて
開いたままの扉の向こう。
廊下を歩いていく気配。
ふと顔を上げると、丁度良くそこを通る人影が見えた。
彼女は気にする様子もなく、クロロの部屋を横切って姿を消す。
その姿を見送ったクロロは、再び手元に視線を落とした。
彼の脳内に、先ほど通り過ぎて行った彼女の姿が浮かぶ。
「…………………」
何かが、おかしい。
鮮明な記憶ではないけれど、違和感を覚えた。
その正体を探ること数秒―――クロロが、本を放り出して部屋を出て行った。
「………おい」
低く、低く。
声をかけられ、彼女は振り向いた。
やはり、自分の見間違いではなかったらしい。
「クロロ?どうしたの?」
「お前…その髪はどうした」
そう、彼女の残像の違和感は、それだ。
背中を覆い、腰に辿り着くほどだった彼女の綺麗な髪が、肩ほどの長さになっている。
彼女が髪を失うような侵入者があったのか?
クロロが円を広げた。
それに気付き、彼女は不思議そうに首を傾げる。
しかし、彼女が疑問を口にするよりも早く、クロロが口を開く。
「…誰にやられた?」
「…やられ?」
両者の間に、温度差が見える。
お互いの脳裏に疑問符が浮かび、それに対しての答えを探せずにいた。
「その髪だ。誰にやられた?」
質問を重ねたクロロに、彼女は未だ納得しない様子で答える。
「パクノダに頼んだんだけど…」
「…何?」
「だから、やられたわけじゃなくて、私が頼んだの。最近、少し頭が重い感じがしていて…短くしたらすっきりするんじゃないかって教えてくれて」
あまり変わらなかったけど、でもすっきりしたわ。
彼女は嬉しそうに笑っている。
「…自分で、そう望んだのか…」
漸く両者の誤解は解消された。
けれど、クロロの心には不満が残っている。
短くなってしまった髪に触れた。
「…あの、クロロ…」
「…………」
「…駄目、だった?」
無言の彼が何を考えているのか。
髪に触れては離し、また触れる様子を見ていれば、何となくわかってしまった。
「これ以上切るなよ」
「………わかったわ」
「切った髪はどうしたんだ?」
「これよ」
彼女が持っていた袋の口を緩める。
覗き込むと、袋の中は水晶の世界のようになっていた。
「…アイス・ドールのまま切ったのか?」
「ええ。それなら売れるよってシャルが」
今から届けるところなの、と答える彼女の手から、袋を奪う。
そして、片手でスキル・ハンターを開いて能力を使い、その袋に火をつけた。
燃え始めるそれを窓から外へと放り投げる。
「…お前の髪を誰かが持つのは不快だ」
「………棄てるものだからと思っていたけれど…よく考えると、そうね」
「わー、すっきりしたね。似合ってるよ」
「ええ、ありがとう」
「で、髪は?」
「クロロが燃やしたわ」
「あー…見つかった後なんだ?折角内緒にして捌こうと思ったのに」
「それについて、後から話があるって」
「……………」
「……………」
「……………俺、用事を思い出したから帰るね!」
クロロ=ルシルフル / Ice doll