045.もしも君の背に翼があったら、僕はどうしていただろう
「それは…」
口ごもる蔵馬。
考えるように、彼は自身の顎に手を当てて沈黙した。
やがて、彼はその表情に苦笑を浮かべる。
「感情は、奪ってしまいたいと考えるだろうな。けれど、心は―――その自由さを奪いたくないと思う。矛盾しているから、結局どうすることも出来ない…だろうね」
「…そう、なの?てっきり、奪う方に傾くと思ったけれど」
「妖狐の時ならそうすると思う。何も考えず、自らの欲望のままに。あの頃の君なら、俺がそうしたとしても、きっと受け入れただろう?」
蔵馬の返事を聞き、そうかもしれないと口を噤む。
あの頃は蔵馬がすべてで、たとえ白でも彼が黒と言えば黒、そんな世界を生きていた。
「今は、自由でこそ輝く君を知っているから…無理強いは出来ないよ。恐らく…自分の限界までは」
「限界が来たら?」
「そりゃ…その時は欲のまま、かな」
まぁ、限界が来ているのだからそんなものかもしれないと納得した。
すると、蔵馬は「君は?」と質問を返してくる。
少し悩み、彼女もやはり、苦笑を浮かべて口を開いた。
「…同じく、かしら」
「だろう?」
「閉じ込めたとしても、その先に幸せはないと知っているから…自然な流れね」
そう言った彼女の手を取り、その手を自身の頬へと寄せる。
触れた体温は少し寒い外気により、普段よりは少し低めだった。
「例え翼を持ったとしても、ここに帰ってきてくれればいいよ」
「…そうね。尤も…一人でどこかへ飛んでいくよりは、二人で歩いていく方が好ましいけれど」
「あぁ、それは確かに」
人間界で過ごし、考え方もやはり変化したらしい。
改めてそれを感じた、昼下がりのひと時だった。
南野 秀一 / 悠久に馳せる想い