041.恋愛ではない愛情も、確かに此処にある
ドクン、と心臓が変な動きをした。
実際に動きに変化があったのかはさておき、何かを感じた事だけは確か。
顔を上げた彼女に気付き、ヒソカが「どうかした?」と声をかける。
しかし、彼女はそれに答えることもなく、じっと明後日の方向を見つめていた。
そうかと思えば、徐にケータイを取り出し、ボタンをいくつか操作してから耳に添える。
「…ええ、私。少し調べてほしいんだけど…イルミは今日、仕事よね。…いいえ、違うの。それが確認したかったわけじゃなくて…ええ、もう十分よ」
ありがとう、と通話を切った。
そして、そのままケータイやら貴重品やらをいつも持ち歩くウエストポーチに入れて出かける準備を始める。
「どうかしたのかい?」
「イルミが怪我をしたみたいだから、少し様子を見てくるわ」
大した怪我じゃないと思うけれど、と呟きながらも、手早く準備を進める彼女。
「不思議なものだねぇ」
「そうかもしれないわね。私たちはもう慣れているけれど。ヒソカはどうするの?」
来る?来ない?
カチンとポーチを腰につけ、そう問いかける彼女。
振り向いた彼女に、ヒソカはやれやれと言った様子で腰を上げた。
「行くよ。君だけで行かせると帰ってこない気がするからね」
「…そんなことは…」
「イルミの怪我が治るまで帰らないよ、確実に」
「……………まぁ、否定はできないわね」
そう言って肩を竦めた彼女は、既にヒソカを視界の外に追い出してしまっている。
会話は成り立っているはずなのに、目が合う時間が極端に短い。
基本的に視線を合わせて会話をする彼女には珍しい状況だ。
しかし、その理由はわかっている。
「君は僕が怪我をしても同じように心配してくれるの?」
「………そうね…自分から怪我をしたわけじゃなかったら、するんじゃないかしら」
「自分から怪我をするわけないじゃないか」
「へぇ…それ、マチに治してもらえるからって両腕を落とした人のセリフ?」
「★」
彼女の目が細められると、ヒソカはただ無言で笑みを深めた。
笑って誤魔化したわけではないだろうけれど、似たようなものだ。
「ほら、行くなら用意して」
「何も必要ないよ」
「そう?じゃあ、もう出発しましょ。私の飛行船はメンテナンス中だから、チケットを取らないと」
取れるかしら…と呟きつつ廊下に出る。
一秒を惜しむような彼女の様子に、ヒソカは小さく苦笑した。
「イルミが双子で良かったよ。彼と本気でやり合うのは骨が折れる」
「何を急に…でも、そうね。二人がやり合ったら冗談抜きで折れるわね」
「イルミ、怪我をしたんでしょう?」
「うん。やっぱり気付いたんだね。親父にも言ってないんだけど」
「当然でしょう。ほら、治療するわ」
「それはいいけど…後ろでヒソカのオーラが凶悪なことになってるよ」
「…気にしなくていいわ」
「そう?」
「ヒソカ、門の所に久し振りに来客みたい。適当に時間を潰しててきてくれていいわよ」
「………そうだね。そうするよ」
「今更だけど、何でヒソカなの?」
「何でなのかしら…私にも謎だわ」
「俺、そのうちヒソカと本気でやり合うはめになる気がする。少しは俺の事放っておいたら?」
「…たぶん無理、かな。逆に落ち着かなくて駄目だと思うわ」
「…だろうね。今までそうだったし…今更変えられないよね」
「そう言うことよ。ま、ああやって外で発散してきてくれれば問題ないし」
「ミケに食われるのとどっちが酷かな…」
イルミ=ゾルディック / Carpe diem