040.そっと息を潜めてあなたを見る、それはまるで恋のよう

朝に弱いわけではないけれど、諸々の事情により起きられない日は多い。
とは言え寝坊と呼べるほどではなく、現代的時間で言えば、ほんの数十分のずれだ。

朝日の柔らかさに瞼を刺激され、覚醒を促される。
もう少し眠りたいと訴える自分の欲を振り切り、ゆっくりと瞼を開いた。

「―――」

見慣れた天井が目に入り、ぼんやりとそれを見つめる。
長く瞼を閉じていた所為で視界がぼやけていたけれど、それも徐々に治まってきた。
二・三度瞬きをした彼女は、そこで漸く、自分の置かれている状況を知る。
とは言え、ほぼ毎日同じ状況なので、驚くことではないけれど…今日は、少しばかり状況が違っていた。

「(…珍しい…)」

本当に、珍しい。
いつもは自分よりも早く起きている政宗が、今日は眠ったままだった。
閉じた瞼、穏やかな寝息。
とくん、と心臓が踊るのを感じた。

じっと見つめていたら、起こしてしまうかもしれない。
わかっているのに、目が離せなかった。
かくれんぼの最中の幼子のように、息を潜めて彼を見つめる。
心臓の動きが、いつもよりも速いと感じた。

どのくらいそうしていたのか。
気が付くと、彼女の手がゆっくりと政宗の頬を撫でていた。

―――起きて。
―――起きないで。

矛盾した考えが頭を過る。
起きて、その目に自分を映してほしい。
けれど、このひと時は…自分の秘密の宝物のような気がして、もう少しだけ味わっておきたいとも思う。
やはり矛盾している―――小さく苦笑した。

「…政宗様」

矛盾したまま拮抗していた感情が、一方に傾いた。
安らかな寝顔はとても貴重だけれど、そろそろ起床時間が迫っている。
城の主が夫婦揃って朝寝坊と言うわけにはいかないのだ。
…きっと、「仲がよろしくて結構です」とでも言って、誰も気にしてくれないだろうけれど。
それに―――やはり、瞼の裏に隠されている、彼の瞳に自分を映してほしいと思った。

「政宗様」
「………、あぁ…朝か」
「ええ。おはようございます」

一日が始まる。
愛されているのに、まるで恋しているようなあたたかくて優しい時間は、もう終わり。

伊達 政宗 / 廻れ、

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10.12.14