038.たった一度だけでいいから、この世の果てまで行ってみたいの
どこに行こうか?
旅支度を整えた彼は、そう問いかけた。
旅に出ると決めたのはもう随分前のこと。
「この戦いが終わったら」それを合言葉に、ずっと進んできた。
玉座に就くべきは彼だと誰もがそう考えている。
けれど、玉座は彼にとっては檻でしかない。
ずっと、仲間と共に、人々の期待を背負って進んできた彼。
「王になるつもりはないよ」
いつだったか、そう言っていた彼の言葉に、納得した。
玉座に彼は似合わない。
相応しくないと言っているわけではなく―――彼はもう、自由になるべきだと思った。
風のように、何物にも制限されず。
そんな風に生きていくべきなのだと…今も、そう思っている。
「どこでもいいわ。私はこの世界の事情には明るくないから」
「じゃあ、詳しくなれるように、地図に載っている土地は全部回ってみる?」
悪戯に笑う彼に、思わず瞬きをした。
それから、クスリと笑う。
こんな風に年相応に笑う人だったのだと、初めて知った。
漸く、彼は重責から解放されたのだ。
「命がいくつあっても足りないわ」
「大丈夫。不老だから。行けるところまで行ってみようよ。どうせなら、夢は大きく持たないとね」
「…そうね。ねぇ、私もやっぱり、不老の影響を受けているのかしら。あまり自覚がないのだけれど…」
「僕も自覚があるかと問われると難しいね。でも、君が影響を受けているのは間違いないと思うよ」
「どうして?」
「だって…こいつが、君を解放するとは思えない」
紋章が宿る手を持ち上げる彼の言葉は、とても説得力があった。
ソウル・イーターは、一度は死んだ私を、異世界まで引きずり込んだ張本人だ。
今更、疑うまでもなかったのだろう。
「とりあえず…朝に向かって歩きましょうか」
「うん、いいね、それ」
「…グレミオさんは気付くかしら?」
「あぁ、彼なら―――」
彼の声に重なって、遠くから聞こえてくる声。
「坊ちゃーん」と間延びした声は少し小さく、一応は気付かれてはいけないのだと言う配慮が見えた。
遠くから駆けてくるその姿に、くすくすと笑う。
「賑やかな旅になりそうだわ」
「いいんじゃないかな。そうやって、笑って旅が出来たら」
「…ええ、そうね」
そうして、三人は夜の闇の中へと消えた。
1主 / 水面にたゆたう波紋