034.一滴の水と共に消え去った僕の気持ちを、掬い上げてください
「―――ごめんなさい」
深々と頭を下げる彼女に、満足感よりも先に申し訳なさが浮かんだ。
「そんな、頭を下げるなんてやめてください!俺は流魂街の出身ですし、元々あなたには不釣り合いだったんです!」
これはただの自己満足だったのだと、身振り手振りでそれを伝えようとする。
けれど、彼女はその言葉を聞いて顔を上げ、哀しげな表情を浮かべた。
「私は…あなたがどこの出身であろうと、断るしかないの」
「それは、朽木隊長がいるから…ですか?」
「え?」
口に出さずにはいられなかった。
驚いた顔をした彼女は、僕がそれを知らないと思っていたのだろう。
けれど―――知っている。
ずっと、彼女を見てきたから。
「あの人は…!あの人は、あなたと言う人がいながら、別の女性を選んだ!もう―――」
解放されてもいいじゃないですか。
その言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
目の前の彼女が静かに零した涙により、言葉は僕の喉へと滑り落ちていく。
声一つ零すことなく、ただただ涙だけが頬を伝って流れ落ちる。
その様子を見て、一番に“綺麗だ”と感じた僕は、人とはずれた感覚を持っていたのかもしれない。
そして同時に、自分の恋心が、決して叶わぬものなのだと理解した。
声を殺して涙を流すほどに、彼女はあの人を愛している。
例えあの人の心が彼女に背を向けているとしても…僕に、その間に入る権利などあるはずもなかった。
「…すみません」
「………いいの、気にしないで」
ごめんね、と彼女は涙をぬぐってそう言った。
「悪いけれど、一人にしてくれる…?」
「………」
「お願い」
「……わかり、ました」
僕に、彼女の涙をぬぐう指はない。
慰められる声もない。
背を向ける彼女に背を向けて、今日と言う日を歩き出す。
「朽木隊長…応えられないなら、消えてくださいよ…っ」
彼女の中に残る存在に、身が焼けるほど嫉妬した。
??? / 睡蓮