029.あなたは私の一番ではない、だけど愛している
あの頃の俺は幼くて、母さんの笑顔の意味を理解できずにいた。
「ねぇ、母さん。俺のこと大事?」
「ええ、もちろん」
枯れた葉を千切り取る母さんは、迷いなく答えてくれた。
「じゃあ、俺のこと好き?」
「どうしたの、急に」
「答えてよ」
不思議そうに笑う母さんに、答えを強請る。
葉を袋に集める作業を一度中断し、母さんは俺を振り向いた。
「愛してるわよ」
「…愛?」
「好きよりももっと大きな気持ち」
「大好きより?」
もちろん、と頷く母さん。
幼い俺は、大好きよりも大きな気持ちを与えられているのだと知り、ただただ嬉しくなった。
「じゃあ、一番?一番、“愛してる”?」
俺の問いかけに、母さんは小さく笑った。
そして、袋を置いて開いた手で俺の頭を撫でる。
「その答えはもう少し大きくなってから、ね」
「えー?」
あの時は笑顔で誤魔化されてしまったけれど、大きくなった今ならわかる。
「母さん」
「どうしたの?」
「俺のこと、一番愛してる?」
本のページを捲る指先が止まった。
顔を上げた母さんは、かつての会話を思い出したのか、あの時と同じ笑顔を浮かべた。
「一番じゃないけれど、愛しているわ」
ジュニア / 悠久に馳せる想い