026.鳥の羽根を一枚一枚引き千切るように、あなたを留めていられたなら
「いい加減諦めたら?」
無駄な足掻きを繰り返す彼女に向かって、そう呟く。
感情のこもらない声が届き、緋色の瞳が射抜くようにイルミを見た。
睨み付けた―――と言った方が正しいだろう。
「全然重くないけど…一般人なら、動かせないと思うよ」
そう言った彼がひょいとそれを持ち上げる。
あっさり動いた枷に、手品のように別物にすり替えられたのでは、と馬鹿なことを考える。
手品でも何でもなく、ただ単に腕力の差なのだ。
「二度も同じ間違いはしない。何より、今はキルもいないし…味方はいないよ?この部屋を出たとしても、一番初めに出会った人間に殺されるのが落ち」
そうなりたいの?と問いかける彼に悪意は見られない。
悪意どころか感情が何一つ感じられないのだ。
「それでも…私は、あなたの愛玩物になるつもりはないわ」
「うーん………面倒だね」
考えるような素振りだが、顔は相変わらずの無表情だ。
どこまで本気なのかが分からず、中途半端に持ち上げられたままの足を引く。
足首を拘束する枷は、やはりピクリとも動かなかった。
「枷、外してほしい?」
「…え?」
「外してあげてもいいよ。逃げ出さないって約束するなら」
「………そんなの、出来るわけないでしょう」
「じゃあ、外して足の腱を切ろうか?そうしたら逃げられないし」
彼女の顔から色がなくなる。
蒼褪める彼女に、イルミはほんの少し、満足げな表情を見せた。
「腕を使うなら腕も切る。五体満足じゃなくなるけど…君の価値が損なわれるわけじゃないよね」
「………っ」
言葉を失う彼女。
この程度の脅しで何も言えなくなるなら、おとなしく言うことを聞けばいいのにと思う。
そうすれば、イルミも脅しなんて無駄なことはしなくてもいい。
「まぁ、今のは冗談だよ」
そう言った彼は、カチャカチャと足枷を操作した。
そして、最後にカチン、という重さに似合わぬ軽快な音を立て、枷が外れる。
足が自由を取り戻し、彼女は困惑したように彼を見た。
「この部屋から出なければ、好きにしていいよ」
「………約束しないわ」
「うん。まぁ…別にいいよ。約束なんて初めから期待してないから」
枷を持って立ち上がった彼は、そのまま部屋を出ていく。
一人になった部屋の中、彼女は暫し呆然と閉じた扉を見つめた。
しかし、やがて決心したようにドアへと走り、扉を開け―――
「何これ!?」
壁!?さっきは開いたのに!?
思わずそう声を上げるのも無理はない。
ピクリとも動く素振りすらなく、まるで壁にかかれた扉を開こうとしているかのような感覚だ。
数分間、それと格闘した彼女は、諦めてベランダへと向かう。
ガラスの窓くらいは開く―――はずだったが、こちらも全くだ。
試しにガラス部分を叩いてみるが、伝わる感覚は壁。
この透明感ではありえない強度だ。
「………馬鹿にして…!!」
肩を震わせ、怒りを深くする。
これなら確かに、枷など必要ない。
次に彼が姿を見せた時が勝負―――勝ち目の見えない勝負に賭ける他はなかった。
イルミ=ゾルディック / Ice doll