025.差し出されたその細い腕が掴むのは、何

「今日は冷える日ね」

魔法で管理された世界でも、時折気候が変化する。
それはさほど大きな変化ではないけれど、不変に慣れている人間では感じ方も異なる。
普段は防寒魔法など必要としないのに、今日ばかりはそれなしには外を出歩けない。
防寒魔法に慣れていない、あるいは使えない生徒たちが身体を縮めて歩いていく姿が新鮮だった。

「あーあ…こんな簡単な魔法も使えないなんて」

随分手を抜いて勉強してたんだね。
なんて、笑顔で毒を吐くアルバロ。
言っていることは間違っていないけれど、人聞きの良い言葉ではないことも確かだった。

「否定はできないわね」
「魔法が完璧な生徒は平然としてるのに…自業自得って奴かな」

そう苦笑したところでまた一人、寒い寒いと言いながら寮へと走っていく生徒が二人を追い越した。

「でも、あえて使っていない子もいるみたいね」

ふと、視線を向けた先に、寒さに身を縮める二人の生徒がいた。
男子生徒と女子生徒だが、覚えはない。
恐らく、自分が名前を覚えるほどに突出した特技は持っていないのだろう。

その二人は寄り添い、そして手を絡めて熱を分かち合っていた。
頬や鼻先を赤くしながらも魔法を使わないのは、相手と熱を分け合うことに意味を感じているからなのだろう。
それは、一般的に言えば微笑ましい光景だが、残念なことに彼女には響かない。
アルバロも同じだろう―――そう思って彼を見た彼女は、怪訝そうに眉を顰めた。
反射的に一歩、足を引いた彼女を追うように、彼の手が差し出された。

「…アルバロ?」

何のつもり?と言う思いを込めて問いかけても、返ってくるのは無言ばかり。
暫く差し出される手と彼の顔を交互に見た彼女は、持っていた分厚い本を彼の手に乗せた。

「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………?」
「…………………うん、君だよね」

そう言って苦笑い。
首を傾げた彼女に、アルバロは渡された本をもう片方の手に持ち替える。
そして、空いた手で彼女の手を掴み、歩き出した。

「…あなたのタイミングってよくわからないわ」

誰よりも普通を嫌いながら、その片隅で普通を演じる。
それが演じているのか、本来の彼なのか…彼女には、まだわからなかった。

「寒さの所為だよ」
「…まぁ、そう言うことにしておくわ」

ふわり、とマントの内側のあたたかい風が二人を撫でた。

アルバロ / Tone of time

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10.11.18