023.指の隙間から、気付かないうちに零れていた

普通でありたい。
ただただ、平穏に。

そう望んでいたのは私自身のはずなのに―――それに気付いた時、私は愕然とした。

「藍染様の言うとおりだな」

一目で破面とわかるそれが、私の目の前にいる。

―――何故、ここまで近付かれるまで気付かなかった?

その答えは一つ―――私の能力が、衰え始めているから。
一護にも話していない、私だけの秘密。
否応無く戦いに身を置くことになってしまった彼は、きっと私も同じ立場なのだと知れば、自らを責めただろう。
自分の霊圧の所為で巻き込んでしまったのだと。
いくら彼は関係なく、原因が私の出生にあったとしても、それは同じことなのだ。

だから、現実を隠すことに躍起になった。
彼にだけは知られるまいと、必死だった。

彼がいて、その隣に私の居場所があればそれ以上に何も望んでいなかった。
そう言う時間がずっと続けばいいと、ただただ願っていた。

そして、彼と共に戦う強さを得た織姫やチャドとは違い、私の持つ能力は徐々に失われた。
その結果が、これだ。

「…私を、殺しに来たの?」

そう問いかけながら、制服の胸元を握りしめる。
服の下に隠されたそれを意識した。
もし、その答えが肯定なのだとすれば―――私は、これを使って自らの魂魄を跡形もなく消し去る。
私の霊圧は一護と同等。
虚に取り込まれるなど、許されないことだ。
幼い頃、死神の母に刻まれ、そう教えられた。
ごめんねと呟く母の表情は、一生忘れないだろう。
怯える素振りの中で、静かに覚悟を決める。

「殺すつもりはない」
「…何?」
「俺と共に来てもらう。…藍染様がお待ちだ」

先ほどから出てくる、藍染と言う名前には覚えがあった。
前に、一護が織姫たちとの会話の中で零した名前だ。
その人がどういう人物なのかは知らないし、何を望んでいるのかも知らない。

だが、たとえ殺されないとしても、敵の手に落ちるくらいならば…。

胸元を握る手に、霊力を集めるが―――

「遅い」

一瞬の重い衝撃、そして暗転。
闇を纏う視界の片隅に、切望する“平穏”を見た気がした。

黒崎 一護

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10.11.16