022.君が淋しくないように、何時も一番近くにいるよ

研究書に没頭していた。
ふと気が付くと、既に赤く傾き出した太陽が水平線に沈もうとしている。
その前に太陽の位置を確認したのは天頂の頃だった。
流石に集中し過ぎたか、と今更疲れを訴えてくる眉間を指で揉む。
その時不意に、部屋の中に人の気配を感じた。
慣れた気配に警戒する事無く周囲を見回したが、部屋のどこにも人影はない。
そう、“人”影はない。
代わりに、ベッドの上でコロンと丸くなった毛玉があった。
黒い毛並は艶やかで、撫でるととても良い肌触りだと知っている。
熟睡しているのか、こちらが動いてもその黒い毛玉は起きなかった。
しかし、本能的なのか、ぴょこりと反応した耳が音源を探るように動く。

「いつの間に来てたんだ?」

そう小さく笑い、起こさないように彼女の背を撫でる。
手触りの良い毛並の上に手の平を置き、ゆっくりと動かした。
程なくして、ゴロゴロと鳴りだす喉。

「喉を鳴らす感覚?んー…意図してるわけじゃないから、説明が難しいよ」

本能的なんだろうね、と呟いた彼女を思い出した。
熟睡している時には鳴らさないから、もしかすると徐々に覚醒に向かっているのかもしれない。
その証拠に、もっと、とばかりに小さな頭が手の平に摺り寄せられた。

「起きたか?」
「………起きてない」

答えている時点でそれは通用しないだろう。
苦笑しつつも、求められるままに頭を撫でる。
一度は大きく開かれた目が、再びトロンと微睡むように細められた。

「いつの間に来てた?」
「んー…2時間くらい前、かな。ほら、一人で読書は孤独だと思って」
「読書はひとりで静かに楽しめるものだろ」
「それのどこが面白いの?」

きょとんと首を傾げる彼女。

「そう言う所は犬っぽいな。あと、忠実なところ」
「今まさに猫の私に言うセリフじゃないよ、ローさん」

尾をゆらりと揺らし、楽しげに目を細める彼女。
それもそうだな、と最後の仕上げをして、彼女から手を放す。
寝ていて強張った身体をググッと伸ばした彼女は、ベッドから降りて人の姿に戻った。

「あー、よく寝た!」
「いつも寝てるだろ」
「やっぱり、人が…ううん、ローさんの傍だとよく眠れるの」
「…そうか。そりゃ良かったな」

うん!と頷く彼女は、自分が淋しくて部屋に来たのだと暴露したことに気付いていないのだろう。
相変わらず笑顔を浮かべ、夕日を見に行こうよとローの手を取る。

「五日ぶりの夕日だよ!」
「…そう言えば、一昨日、昨日と大しけだったな」
「そうそう。ただでさえ三日ぶりの海面だったのにね」
「堪能しとけよ。明日はまた沈む」
「…えー…海の上を行こうよ」

トラファルガー・ロー / Black Cat

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10.11.15