018.ひらひらと風に流されながら飛ぶ蝶が、酷く哀しげに見えた
―――ひらり。
視界を舞う、一匹の蝶。
時に吹く風に抗うように、時に風に流されながら。
ひたすら、薄い翅を羽ばたかせる。
「…お前も、独りなの?」
風から守るように蝶に手をかざした。
悩む知能があるのかどうかはわからないけれど、蝶は少しの間を置いて彼女の手で翅を休める。
仲間ではないと知っているはずなのに、蝶は安心したようにゆったりと翅を動かしている。
「…独りは寂しいね」
応えるように、蝶が翅を動かした。
その光景に小さく笑み、木々に切り取られた空を仰ぐ。
がさがさ。
遠くから、木の葉の擦れる音が近付いてきた。
指先に止まっていた蝶がひらりと風に乗る。
「やっと見つけた」
探したよ、と彼が笑う。
そんな彼の脇を飛び、蝶は姿を消した。
「あの蝶…」
「知っているの?」
「うん。希少な種類だよ。向こうにも何匹か見つけたから、この辺りに生息しているのかもしれないね」
振り向き、蝶を見送った彼が改めて彼女を振り向く。
ほら、と差し出された手を取り、腰掛けていた岩から立ち上がった。
「思ったよりも引き離されていて、驚いたよ」
「ごめんなさい。私の所為かしら」
「十中八九、俺を引っ張って突っ走ったあの子の所為だろうね」
彼がそう苦笑するのは、軍を率いる少年だ。
ごめんなさいと必死に頭を下げてくる光景が目に浮かび、クスリと笑う彼女。
「彼はどうしているの?」
「青くなって見当違いな場所に探しに行ったよ」
「あなたの場合は少しずるいわね。紋章のお蔭で居場所なんてすぐにわかるんだから」
「特権だと言ってほしいね」
二人して軽い言葉を交わし、笑いあう。
行こうか、と歩き出す彼に続き、ふと先ほどの蝶を思い出した。
あの蝶は、もう仲間に会えたのだろうか。
蝶が去った方を見つめ、しかし何も言わず、彼と共に歩き出した。
1主 / 水面にたゆたう波紋