013.胸が痛くて切なくて、この気持ちになんと名前をつけたら良いのだろう

「なぁ」

一護の、躊躇いがちな声。
振り向いて続きを求めるように視線を投げると、彼はガシガシと頭を掻いた。

「朽木ルキアって知ってるか?」
「朽木…ルキア?」

一護の目が、縋るような切実さを帯びていた。
ここ最近、彼は時折まるで知らない人のような顔を見せる。
前は、こんな表情をする人じゃなかったと思う。

「…先輩?それとも他のクラスの子かな?」

彼が求める答えを知っていて、それと真逆の言葉を返す。
一瞬だけ、彼の目が哀しみに揺れた。

「悪い。気にすんな」

そう言って頭を撫でる彼。
誤魔化す時と甘やかす時の癖なんだって、知らないでしょう?
今は甘やかされているわけじゃないから、きっと誤魔化されてる。

門の前まで送ってもらって、そこで立ち話。
変わらない日常は、明日からは少しだけお休み。

「夏休みだね」
「ああ」
「出掛けるんだっけ」
「ああ」
「気を付けて、行ってらっしゃい」

どこに行くのか、いつ帰ってくるのか。
何も聞かされていないけれど、笑顔で見送ると決めたから。
ひらりと手を振ると、一護の腕が私を引き寄せた。
空手で鍛えられた身体に抱きしめられる。

「行ってくる」

腕がほどけて二人の間に距離が出来る。
最後に頭を撫でて、一護は私に背を向けた。

本当は、行ってほしくない。
危険だと知っているから。
でも、引き止められないと言うことも、知っている。
これはきっと、彼が彼であるために必要なこと。

「朽木さんの事、よろしくね」

唇で呟いた声は、彼の背中には届かない。

黒崎 一護

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

10.11.01