010.微かな痛みが、私にあなたを思い出させる
ふと横を向いた拍子に、ピリリと首筋が痛む。
怪我でもしただろうかと、ほんの少し動きを止めた。
しかしすぐに痛みの理由を思い出し、小さく苦笑を浮かべる。
「本当に…吸血鬼に血を吸われたみたいね」
鏡の前で軽く襟元を開き、そこを確認する。
ぷつりと開いた二つの穴は、既にわからなくなりつつある。
ただ、そこの部分を動かす際に、僅かに引き攣るような痛みを感じる時があるのだ。
もう間もなく、その痛みも消えるのだろう。
傷跡を指先でなぞりながら、その原因であるシルビオを思い出す。
今は昼前で、予定通りならば彼は薬屋を開けているはずだ。
色々と文句を言う彼を、サボりは駄目だと追い出すのはいつもの事。
そして、太陽が真上に来る少し前に、昼食を作って薬屋を訪れるのもまた、いつもの事だ。
用意した二人分の食事を清潔な布で包み、テーブルの上に置いて改めて鏡に向き直る。
人前に出るに相応しい身なりであることを確かめ、鍵と昼食を手に家を出た。
爽やかな日差しが真上から降り注ぐ。
「いい天気」
帰ってくる頃には、朝に干しておいたシーツの類が乾いているだろう。
今日は太陽の匂いに包まれて眠りにつくことが出来そうだ。
優しい日差しを浴びながら、薬屋に向かって歩き出す。
そろそろだ、と首を長くして待っているであろう彼を想像して、クスリと笑った。
「お待たせ。真面目に店番してる?」
「いつもありがとう。今日は結構暇だし、少し早めに閉めるよ」
「そうなの?じゃあ、買い物に付き合ってくれる?そろそろ調味料を買いたいの」
「もちろん」
「ありがと。じゃあ、夕方にまた来るわね」
「わかった。……そう言えば、さっきティアナが来たんだ」
「あら、薬屋に用事でもあったの?」
「ああ。疲れが取れる薬がほしいって」
「疲れ、ね…状況がよくわからないけれど、作ってみるわ。はい、準備できたわよ」
「んじゃあ、いただきます!」
「はい、召し上がれ」
シルビオ / 親愛なる君に捧ぐ