009.二度と戻れないと知っているのに、どうして戻りたいと思うのだろう

ひらり、と舞い落ちた写真に気付く。

「蔵馬、落ちたわよ」

声をかけながら指先でそれを拾う。

「あら…懐かしい写真ね」

拾い上げたそれを見て、思わずそう呟いた。
蔵馬が隣へとやってきて、同じくそれに視線を落とす。

「あぁ…本当だな」

懐かしい写真だ、と呟いた蔵馬の表情は、妖狐蔵馬の姿でありながら南野秀一を感じさせるものだった。
彼を見ていると時々、妖怪の彼と人間の彼の境界が曖昧だと感じる時がある。
過ごした時間で言えば、妖怪の方が遥かに長いと言うのに。
そう考えると、南野秀一として生きた時期が、彼にどれほどの影響を与えたのかがよくわかる。

落ちた写真を、それを挟んでいた本と共に持つ。
自然と開くページには、他にも複数の写真が挟み込まれていた。
後でアルバムにしようと思っていて、そのままになっていたらしい写真の数々。
色褪せ始めた、遠い日の記憶。

既に、この写真の中の、多くの人が死んでしまった。
もちろん、会える者もいるけれど―――全員で顔を合わせるのは不可能に近い。
霊界との敷居は、まだ少し高いからだ。

動くことのないそれは、二度と戻ることのない日々。

「本当に…懐かしい」
「…戻りたい?」
「………戻ってみたいとは思うが………どうだろうな」

彼はそう言って苦笑した。
今を進むことが悪いとは言わない。
しかし、過去を振り返った時ふと、言葉では表現できない寂しさを感じるのだ。

「仕方ないわよね。彼らは人間だったのだから」

種族の違いは様々なところにあるけれど、一番大きく違うのはやはり寿命なのかもしれない。

「今度―――」
「うん?」
「人間界に出かけようか」

ふわりと背中から包まれ、触れる体温に甘えるように瞼を伏せる。
頬を撫でる手に擦り寄り、どこに行くの?と問うた。

「母さんたちの墓参りに行こう」
「…ええ、そうね」

もう戻れない日々。
しかし、だからこそ、こんなにも愛おしいのかもしれない。

そんなことを考えながら、パタン、と本を閉じた。

妖狐蔵馬 / 悠久に馳せる想い

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

10.10.26