008.ねぇ、私が此処にいた事を、どうか忘れないでください

レイディールに乗って羽ばたく大空。
何故か、これは夢なのだと自覚していた。
凍えるような冷たい風で咳き込んだりもしない。
自由な身体で、私はその世界にいた。

頬に風を感じながら、遠くに見える城がタイクーン城であると気付き、目を細めた。
夢でもいい。
再びこの目で祖国の地を見られたと言うだけで、幸せだ。

「…レディ」

それ以上の言葉は必要ない。
レイディールは私の意思を理解し、ゆるりと高度を下げ始めた。
同時に、それが覚醒へと繋がる道であると、朧気に理解する。

「―――どうか」

祈るように、そっと手を組んだ。
この世界にとどまりたいと言う願いはない。
あの世界に、私を待つ人がいる。
どくん、と鼓動する手から伝わる感情に、小さく笑みを浮かべた。

「忘れないで。私がこの世界に存在したことを。そしてどうか―――幸せに」

届けるべき相手は、目の前にはいない。
祈りだけをその世界に残し、私の意識は沈んだ。





「目が覚めた?」

一番に目に飛び込んできたのは、覗き込んでいたらしい彼の顔。
女性の部屋に無断で入るなんて、と思ったが、周囲の状況を見て、あぁ、と納得する。
今は旅先で、昨晩は仲間たちで一部屋を取った。
ここが女性の部屋であることも間違いではないが、男性の部屋でもあるのだ。

「おはよう。遅かった?」
「ううん、皆まだ寝ているよ」

そう答える彼に、それならどうして、と問う。
彼は苦笑して、手袋越しに自分の紋章を撫でた。

「こいつがやけに煩いから。意識だけ旅に出ているのかと心配したよ」
「……………そうね。間違ってはいないかもしれないわ」

夢だと思うけれど、どこか現実味のある夢だった。
彼の話が本当ならば、もしかして、と思う。

「久し振りに里帰りをした気分だわ」
「そうなんだ?随分と機嫌が良さそうだから、夢見が良かったことはわかっていたけど」

良かったね、と微笑む彼。
陽だまりのような温かい笑顔に、自然と笑顔が零れた。

「ねぇ、朝霧の中を歩きたいと思うのだけれど…」
「それはお誘いかな?」
「一人で行ってもいいなら、行くわ」
「あはは、それは駄目だよ。うん、わかった。一緒に行こうか」

差し出された手に、自分のそれを重ねる。
このぬくもりこそ、世界を渡り、得たもの。
触れるだけで幸せが溢れる、優しい感情。

「…どうか、あなたたちも幸せに」
「ん?」
「何でもないの」

1主 / 水面にたゆたう波紋

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

10.10.25