007.例え冗談だったとしても、どうして否定してくれないの
リビングルームのカーペットの上で、開いたアルバムを見下ろす。
「本当に…波乱万丈な高校生活だったわよねー」
こんな風に昔を懐かしむように語るほど、まだ年月は経っていない。
何と言っても、高校を卒業したのはほんの半年前なのだから。
「まぁ、普通じゃない生活だったことは確かだね」
近くでソファーに凭れてコーヒーを飲んでいた翼がそう相槌を打つ。
「一年生の時は部活で色々とあって―――」
「二年に上がって少しは落ち着くかと思えば、あれだしね」
「そうそう。私、あのまま翼との関係が修復不能になるかと思った」
大変だったねー、と、今だから笑っていられるのだ。
倦怠期…と言うわけではなかったのだが、二人の関係がこじれた二年生。
本当に別れるのかと思った、と語る友人たち。
お前らならすぐに戻ると思ってた、と笑った親友たち。
お前らが?嘘だろ~、と信じないサッカー仲間たち。
結果としてはあれを乗り越えたから、より強い絆を持てたと思っている。
二人が共に歩んでいくには、必要な障害だったのかもしれない。
「私があの時泣かなかったら、翼の隣にはあの子がいたのかな?」
「…………………」
「ちょっと、否定はないの?」
無言で膝の上の新聞を広げる彼に、彼女がむっと唇を尖らせた。
「じゃあ、逆に聞くけど…俺が引き止めなかったら、アイツに縋りついた?」
「さぁ?来なかった未来の事なんて知らない!」
ふん、と顔を背けた彼女が、アルバムを片付けてリビングを出ていく。
本気で怒っているわけではないし、彼女の答えはわかっているので気にしない。
彼女の背中を見送った翼は、少し冷めたコーヒーを飲んだ。
「妬いてるお前が可愛かったから否定しなかっただけ…なんて、俺らしくなくて嫌になるよ、まったく…」
らしくないと思っているけれど、こんな自分も悪くない、と思う自分もいる。
本当に長い擦れ違いだったけれど、心が別の方を向いたことは一度もない。
彼女にそう聞いたわけではないが、少なくとも翼はそう思っているし、それはおそらく間違っていない。
リビングに戻ってきた彼女は、先ほどの拗ねた様子などどこかに忘れてきたように普通だった。
「ねぇ、翼。今日は遅くなるんだった?」
「んー…どうだったかな。そこのカレンダーに書いてある」
「………あ、今日は早いのね」
壁にかけてあるカレンダーを確認した彼女が嬉しそうに笑った。
「じゃあ、ディナーは外で食べない?美味しい日本食のお店を紹介してもらったの!」
「いいよ。けど、今度こそ信用できるの?」
「んー…たぶん!」
「微妙な返事だね。ま、いいけど。お前の帰りは?」
「定時で帰れると思う。外回りもないし」
「じゃあ、たぶん俺の方が早いかな。迎えに行くよ」
「はーい。それなら、今日はバイクに乗れるようにジーンズにしようかなー。上はどうしよう」
「カジュアルOKな店?」
「ん。大丈夫」
「なら、この間買った青いやつ。あれ、まだ着てるとこ見てない」
「そうだっけ?じゃあそれに決まり。翼も一緒に買った服で!」
「はいはい」
椎名 翼 / 夢追いのガーネット