006.少しずつ少しずつ、そして緩やかに私は罪を重ねた
赤い血溜まりに伏した男を見下ろす彼女の目は、どこまでも冷たい。
感情の見えないそれが、ただただ男の最期を見つめていた。
「仇…討たせてあげられなくて、ごめんなさいね」
既に言葉を失っている男に向かって、そう呟く。
声なき男の唇が、最期の文字を刻み、そして事切れた。
最期の瞬間まで憎み続けられるとは…いったい、何をしたのだろうと思う。
男が紡いだ名を持つ彼が、路地の向こうからこちらを見つめていた。
それに気付いた彼女は、ひょいと血溜まりを越えて彼の元へと歩く。
「どうしたんだい?」
「あれ、あなたの客よ」
「おや、珍しいね。君が片付けてくれたんだ?」
彼女の性格を知っているからなのか彼、ヒソカは少し驚いた様子だ。
気紛れよ、と答えたけれど、納得していないことは明白。
じっと穴が開きそうなほどに見つめてくる彼に、どちらが折れることになるのかもまた、明白だった。
「あなたに向けた殺気が不快だった―――それだけよ」
悪い?と鼻を鳴らす。
そんな彼女を見て、ヒソカはクククッと笑った。
「やっぱり、珍しいね。嫉妬かい?」
「…そのつもりはないけれど」
何となく、そう思われるだろうとは思っていた。
だから言いたくなかったのに、彼が言わせるから。
不満を表情に出す彼女に、ヒソカはやはり笑顔を浮かべている。
「僕たちはよく似てるね」
「何の―――」
何のこと、と問いかけるつもりだった言葉が半ばで途切れた。
ヒソカが動いた瞬間に、ふわりと鼻に届いた臭い。
慣れ過ぎているそれが何なのか―――考えずとも、理解した。
「こっちは君の客だったよ。不愉快だったから、殺しちゃったけど」
「…そう」
そう言えば、どことなくヒソカの纏うオーラが危うい。
ともすれば本能が剥き出しになりそうなそれに気付き、ほんの少しだけ距離を取る。
しかし、彼に気付かれ、肩を抱かれて更に距離を縮める結果となった。
「君が他の男のことを考えるのも嫌だけど、他の男の中に君がいるのも嫌だな。どうすればいい?」
「…それを解決しようと思うと、世界中の人間を殺すことになるわよ」
「それはそれで楽しそうだけど」
「…イルミが死んだら私―――たぶん普通じゃいられなくなるわ」
同じ血を分かつ二人だ。
昔から、不思議なほど繋がりを感じて育った相手を失えば、どうなるのかわからない。
今でもなんとなく彼を感じているし、怪我をすれば誰よりも早く気付く。
「………僕としては、彼が一番厄介だよ」
「我慢して。もしくは忘れて」
「他は?」
「私を諦める?」
ヒソカは肩を竦めた。
「慣れるように努力するよ」
「その言葉は、あなたには似合わないわね」
「褒め言葉として受け取っておこうかな」
ヒソカ / Carpe diem