005.手の中の大切な何かが、まるで水のように流れて行く
「あんたはアイツらとは違って死神っぽいのに―――アイツらと一緒にいるんだな。似合わねぇ」
名も覚えていないような虚の言葉が、今も記憶に残っている。
虚自身のことは殆ど覚えていないと言うのに、ふとした時に、この言葉を思い出すのだ。
似合わないことなんて、自分が誰よりもわかっていた。
それでも、“自分”を隠して生きることに疲れ、この人には過ぎた力ごと必要だと言ってくれた彼に、寄りかかってしまったのだ。
依存と言うに十分な関係。
彼の本性に触れる度に、自分の中から何かが零れ落ちる気がしていた。
「どうかしたのかい?」
人を安心させる穏やかな笑みではない。
進む道に敵などないと、そう確信しているような、強い表情だ。
「表情が良くないな。気分が優れない?」
「…いいえ、大丈夫」
心配しないで、と告げると、彼は沈黙を返した。
ふむ、と何かを考えるようにじっと、私を見つめる彼。
全てを見通すような眼差しが、心の隅まで見抜いてしまうような気がした。
「そうか。あぁ、そう言えば…No.8が入れ替わったよ」
「…死んだの?」
「そうらしいね。死神を殺し、発見された時は虫の息だったらしい」
そう。
私は短く答えた。
ナンバーが入れ替わることは、そう珍しいことではない。
気にするようなものでもないだろうと視線を外し、肩から落ちた羽織を指先で引っ張り上げる。
「漆黒の髪に、青い目をした破面だ。と言っても、君は覚えていないかな」
興味がないことは覚えないからね。
そう言って、彼もまた、視線を手元へと戻した。
隊長として持ち帰った仕事に取りかかるようだ。
そんな彼は、私がその傍らで驚いた表情をしていることに、気付かなかっただろう。
「あんたはアイツらとは違って死神っぽいのに―――アイツらと一緒にいるんだな。似合わねぇ」
そう言った彼もまた、黒髪に青い目をした破面だった。
彼が死んだかもしれないと、悲しんだわけではない。
「あんた、笑ったら綺麗なんだろうな。笑ってみせろよ」
「…惣右介さんに言ってみたらどう?」
「冗談。虫を殺すみたいに消されるなんてごめんだぜ」
忘れていた会話が甦る。
「笑えよ。悩んで迷ってても、笑ってりゃいつかは報われる。昔、人間だった頃―――俺は、そうして生きていた」
「―――どうした?泣いているのか?」
伸びてきた指先が、頬に触れる。
涙はない。
悲しいわけではなかったから。
ただ、私に影響を与えた数少ない内の一人が、この世界から消えた。
そんな、一種独特の喪失感を抱いたことだけは、確かだった。
藍染 惣右介 / 逃げ水