004.あの川の流れが留まる事を知らないように

前方で軍の指揮を執る政宗の背中を見ていた。
もう数えられないほど出兵した今、戦に対する緊張はない。
けれど、その度に感じる不思議な高揚感は、都度高まりを見せているような気がした。
もちろん、戦は悲しみしか生まないと理解している。
その先にあるものを目指し、避けられないから戦を選ぶだけ。
この高揚感は、政宗一人に向けられるものだ。
城内の落ち着いた空気や、鍛練途中の凛とした空気とは少し違う、独特のそれを纏う彼。
どこまでも着いて行こうと思わせるこれがカリスマなのだと、彼の背を見て初めて知った。

「姫さん?大丈夫か?」

ぼんやりしていたのだろうか。
珍しく手綱を取った氷景が、隣へと馬を進めてきた。
そんな彼に、大丈夫、と首を振る。

「見惚れていただけだから」

気にしないで、とそう言えば、深い溜め息が返ってきた。

「よくもまぁ、毎日顔を合わせる相手に今更見惚れられるな」
「感情に際限なんてないから」
「はいはい、お熱いことで。筆頭からの伝言だが、伝えてもいいか?」

戦に関することだと理解したのか、その言葉を聞くなり、彼女の表情が真剣みを帯びた。
流石だな、と口角を持ち上げ、先ほど政宗から言付けられたそれを彼女に伝える。

「―――他には?」
「あとは好きに動けってさ」
「…もう少しはっきり指示してくれればわかり易いのに」

ほんの少し唇を尖らせつつも、彼女の表情は満更でもない様子だ。
恐らく、既に自分の取るべき行動が見えているのだろう。
そしてそれはきっと、政宗が彼女に望む行動と同じだ。
この二人は、時々驚くほどに同じ思考を持つことがある。
鴛鴦夫婦などと言う言葉では語れない、まるで頭の中を共有しているのかと思うほどのそれ。
確信めいた彼女の表情が、それを感じさせた。

「政宗様に是とお伝えして」
「御意」

頷いた氷景が馬の腹を蹴って前方の政宗の元へと駆けていく。
彼女自身もそれに続きたい欲求に駆られたけれど、それをぐっと堪えて殿へと馬首を返した。

伊達政宗と言う男性を、どこまでも深く尊敬している。
間違っても、彼の信頼を裏切ることは出来ない。
きっと、彼はよほどのことがない限り笑ってくれるだろうけれど―――これは、彼女自身の問題だ。
先ほどまでの緩んだ空気を消し、彼女はそっと瞼を伏せる。
呼吸を整え、瞼に焼き付いている政宗の背中を思い出した。
彼に着いて行くと決めた、自分にすべきことは一つ。

「勝ちに行くよ」

口角を持ち上げれば、彼女の傍らにいた兵達が太く歓声にも似た声を上げた。

伊達 政宗 / 廻れ、

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10.10.19