001.分かり合えるには遠すぎて、でも近すぎるあなたとわたし
手を伸ばせば届く距離。
言われるがままに腕を回して、流川の背に頬を寄せる。
布地の良い学ランを通しては、彼の体温を感じることは難しい。
現実的な距離などない状況にありながら尚、心は乾くばかりだ。
触れているのに触れられない距離が切なくて苦しい。
「…なんて」
そんな欲張りを言える立場じゃないと理解している。
そう言う関係として始めたのは、他でもない自分自身だから。
「何か言ったか?」
自転車をこぐ彼の背中越しに声が聞こえた。
まるで一人で走っている時と変わらない速度で帰路を走る二人乗りの自転車。
警察に見つかれば、危ないからと注意を受けるのだろうけれど、この時間に警察を見たことはない。
「何でもない」
流川の声に、少し声を大きくして答えた。
少なくとも、彼はこうして気にかけてくれる。
きっと、それは他の女子よりも近い所にいるから。
それなのに、最後の一歩のところで、彼とかわした“約束”が邪魔をする。
だからなのだろうか―――時々、他の女子よりも遠いと感じてしまう時があった。
「―――い」
「……………」
「おい!」
「え、あ…ごめん。何?」
少しぼんやりしていたらしく、大きい声にびくりと肩を揺らしてしまった。
相変わらず前を向いてペダルを動かす彼。
彼のさらりとした髪が風になびいて綺麗だった。
「明日…休みだよな」
「?うん」
「部活も休み」
「知ってる、よ?」
改めて言われなくても、と苦笑する。
口には出さないけれど、彼が覚えていて、自分が忘れていたら…それはとても問題だと思う。
「隣町の公園に行く」
「…あの、大きな公園?バスケットゴールがあるんだよね、確か」
前にそんな話を聞いた気がする。
確認するように問いかければ、彼はこくりと頷いた。
顔を合わせて会話をしているわけではないのだから、出来れば声に出して返事をしてもらいたいものだ。
見落としていたらどうするんだ、と思いつつ、そう、と頷く。
「9時に出る」
「???…ちょっと意味が分からないんだけど」
「8時に朝練して、飯食って…9時に出発」
「………それって、私も一緒?」
再び、確認の問いかけ。
「当然」と言う小さな声が聞こえた。
「……デート?」
返事はない。
けれど、何となく彼の空気が肯定していた。
彼の背中で小さく笑みを浮かべる。
そして、見つめるのをやめてその背中に頬を寄せた。
「お昼はどうしようか?作る?」
「土曜だけ移動販売が来るらしい」
「そうなんだ?うん、そう言うのも面白そうだね」
明日が楽しみ、と告げれば、その後は無言で帰路を進む自転車。
ふと、先ほどのもやもやした感覚が消えていることに気付いた。
その事実に、小さく苦笑する。
「すごいなぁ、ほんと」
敵わないよ、と言う声は、風に溶けて消えた。
流川 楓 / 君と歩いた軌跡