097.束縛
「何となくそうだろうとは思っていたけれど…予想以上ね」
ソファーに足を組んで腰かけ、肘掛けについた腕をぶらぶらと揺らす。
一般の人間が見れば何をしているのか、と思う光景だろう。
しかし、彼女の手首にはしっかりと、粘着性の高いオーラがまとわりついている。
いや、最早、粘着性と言うよりは接着性のレベルだ。
「鬱陶しいんだけど?」
「そう感じるほど張ってないし、重さは感じないだろう?」
「重さは感じなくても、存在感だけで十分鬱陶しいの」
妥協する気のないヒソカに、長々と溜め息を吐き出す。
そもそも何が原因なのかが分からない。
けれど、何かがヒソカを不機嫌にさせ、その結果として、彼のオーラに縛られていることだけは確かだ。
こうなった彼は梃子でも動かない。
もし仮に動いたとしても、それは限りなく危険な状態だ。
欲望に忠実なヒソカを相手にすると、冗談抜きで肋骨の何本かは折られる。
「…はぁ、タイムオーバー。イルミに謝らないと…」
ちらりと時計を見上げて溜め息を吐き出す。
拘束の所為で、約束の時間を超えてしまった。
その時、タイミングよく彼女のケータイが震える。
「ごめんなさい。……ええ。理由は色々とあるけれど、まず謝っておくわ」
通話ボタンを押した彼女は、開口一番、謝罪の言葉を口にした。
向こうの淡々とした声が逆に薄ら寒さを増幅させる。
怒っているらしい―――当たり前だけれど。
いっそ烈火のごとく怒り狂ってくれた方が楽だな、と思いつつ、粛々と彼の小言を話半分に聞き流す。
その時点で間違っているが、双子なのでイルミも十分理解していることだろう。
「だから、それは―――って、何するの」
反論ではないが、状況を説明しようとした彼女の手から、ケータイが消えた。
動いていく先を見れば、自分のケータイを耳に添えたヒソカの姿。
「悪いね、イルミ。今日は行かせないよ。…うん、駄目★」
笑顔が怖い。
一体何の話をしているのだろうか。
離れようと思ってもオーラの所為で離れられない彼女は、ソファーの端に避難した。
「はい」
程なくして、ヒソカからケータイが返ってくる。
既に通話の切れたそれを受け取り、それと彼とを交互に見た。
「話はついたよ」
「…そう。それで、結局あなたは何が不満なの?」
「さぁ、何だろうね?」
質問に対してもまともな返事はない。
教えるつもりなど更々ない彼の様子に、彼女はまた一つ、溜め息を吐き出した。
溜め息一つが幸せだと言うならば、彼女の幸せは当の昔に底を尽いてしまっていることだろう。
とりあえず、今日は理由のわからない束縛に付き合わなければならないらしい。
【 097.束縛 】 ヒソカ / Carpe diem