095.破片
ガシャン、と何かが割れる音がした。
「どうした?」
「カップ割っちゃった」
気に入ってたのに、と肩を落とした彼女が床にしゃがみ込む。
落としてしまったカップを拾おうと言うのだろう。
手伝うか?と問うといいよ、と言う否定の声が返ってきたので、途中だった新聞に視線を落とす。
「痛…」
2、3行も進まないうちに聞こえた声に、エースはパッと顔を上げた。
見れば、床に膝をついた彼女が自分の指先を見つめている。
その指先に、一筋の赤。
それを見るなり、エースは新聞を投げ捨てた。
「おい、切ったのか!?」
慌てて駆け寄り、傷の具合を確かめる。
その勢いたるや、怪我をした側の彼女の方が驚かされるほどだ。
「や、切ったって言ってもほんのちょっと…」
「とにかく洗え!いや、消毒!?」
慌てる彼を見て、あれ、と思う。
しかし、首を傾げて3秒後にはその理由に気付いた。
「そっか。エースって切ったりしない身体なんだったね」
だからかー、と納得した様子でクスクス笑う彼女。
そこで、エースが我に返った。
「…悪いかよ」
「ううん。心配してもらえて嬉しい。でも、ちょっと心配し過ぎかな」
大丈夫だよ、と笑った彼女が、自身の指先を舐める。
よく言う、舐めておけば治る程度の傷なのだ。
現に、血を舐め取ってしまえば、そこには既に血が止まった傷があるだけ。
地味な痛みはあるけれど、何かをしていれば忘れてしまうような些細なものだ。
「ほら、もう俺がやっとくから」
「えー」
「えー、じゃない。…破片に嫉妬するぞ」
「…は?」
きょとんとエースを見つめる彼女。
どこか拗ねたように視線をそらす彼を見て、彼女はその言葉の意味を考えた。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………???」
「だー!!そんなに悩むなよ!」
「だって、意味が分からないんだけど」
「いいから気にすんな!向こうで新聞でも読んでろ」
そう言って彼女の背中を押してソファーへと追いやる。
追及を避けるようにさっさと破片を拾い、ゴミ箱へと向かう。
その背中を見つめて、彼女はやはり首を傾げた。
「エースの言ってること、時々意味が分からないんだよね」
ま、いっか。
ソファーで足を伸ばした彼女は、投げ出されていた新聞に手を伸ばした。
【 095.破片 】 ポートガス・D・エース / Black Cat