094.不死
「へ?」
拍子抜けしたような、シルビオの声。
彼の手元で遊ばれていた空のグラスがゴトンとテーブルに横たわった。
「…それ、本当?」
「…本当」
「冗談―――」
「じゃないの」
シルビオが縋る可能性をことごとく否定する。
その後は暫くの沈黙。
「俺の覚悟は!?」
うん、そう思うよね。
尤もな反応に、思わずうんうん、と頷いてしまった。
それから、申し訳なさを隠さず、口を開く。
「ごめんなさい。あの時は私も自信がなかったから…正直、絶望していたの」
シルビオは不老不死の重みを正しく理解していないと思った。
ただ、目の前に転がった可能性に縋ってしまったのだと。
そうさせた自分に絶望したし、逆にそれほどの覚悟をしてくれた彼に歓喜した。
「あなたが覚悟を決めてくれたことは、本当に嬉しかったの。でも…さっき言った通りよ。不老不死の効力は、フェルドが私の中にいる間だけなの」
彼と完全に離れたその時から、不老不死の恩恵は消える。
はっきりと説明すると、シルビオはテーブルに項垂れた。
「…本当に、ごめんね?あの時に知っていればよかったんだけど…」
「いや、いいよ。逆に、ほっとしてる所もあるし」
そう言ったシルビオに、やっぱり、と思った。
口では覚悟したと言っても、不老不死は未知の領域だ。
それに恐れを抱いていないはずがない。
思わず口を噤んでしまった私に、シルビオが顔を上げる。
「たぶん、考えてるのと違うよ。俺はいいんだよ。ちゃんとわかって、覚悟した。だけど…ずっと、負い目に感じていくんだろうなって…それだけは、気になってたから」
「負い目にって…私が?」
「違う?」
「………違わないわね」
「だろ?俺に逃げ道があれば、思いつめる必要もなくなるし…そういう意味で、ほっとした」
テーブルに肘をついたシルビオが、もう片方の手を私へと伸ばしてくる。
そっと触れてくる手はあたたかい。
「今すぐに、って言わないってことは、フェルドと離れるのは当分先になるわけだ。ま、長い人生を楽しめばいいじゃん」
「…うん。シルビオは…それでいい?」
「ここはそうやって聞くところじゃないだろ?」
質問に質問で返される。
彼が求める言葉は、私の言葉とは別物のなのだろう。
「一緒に、いてくれる?」
「もちろん」
それが当然と言うように、彼は優しく微笑んだ。
【 094.不死 】 シルビオ / 親愛なる君に捧ぐ