083.舞姫

歌って踊れる舞姫が、酒場に集まる海賊たちに人気らしい。
買い出しメンバーがそれを聞いたらしく、残っていたクルーと共に、競うように酒場を目指した。

「男って馬鹿だよねー」
「まぁ、否定はできねぇな」
「まったく…誰が積み荷の整理をするんだか」

船の縁に座って彼らを見送った彼女が、呆れたようにそう言って肩を竦めた。
そして、とんと軽やかに船を蹴り、音もなく船着き場へと飛び降りる。

「これ、貸しにしといても問題ないよね?」
「あぁ、好きなだけこき使ってやれ!」
「やった!破産するくらい奢ってもらお!」

上機嫌で荷物を持って船へと戻ってくる。
きっと、ベックマンの「ほどほどで勘弁してやれよ」と言う声は聞こえていないだろう。
荷物を運んでは飛び降り、荷物を持ってきて甲板に置いては、また飛び降りる。
文句も言わずに働く彼女を見ていたベックマンも、手伝うか、と煙草を銜え直した。
そこで、彼女の向こうに赤髪の彼を見つける。

「あんたは行かなかったのか?」
「何のことだ?っつーか、何であいつ一人で運び込んでんだ?」
「…酒場に美人な舞姫がいるんだとよ」

ベックマンの言葉に、シャンクスはそーか、とだけ頷く。
彼の目は甲板と船着き場を往復する彼女へと向けられていた。

「おーい、重いのは置いとけよー」
「あ、シャンクス。いたんだ?」
「何だよ、何か残念そうだな?舞姫を見に行ってほしかったか?」
「んー…そんなことはないけど…シャンクスを破産させる計画が駄目になった」
「破産?」
「うん。これ全部、貸しにしておこうと思って」
「あぁ…馬鹿な奴らだな…」
「ほんとにねぇ」

のんびり船から降りて行ったシャンクスが、彼女の傍の樽を肩に担ぎあげる。
片腕では多少バランスを崩してしまうらしいが、そこは彼女が即座に反応した。
隣から樽を支え、バランスが取れたところで手を放す。
そして、自分も小ぶりの箱を抱えてシャンクスに続いて船に戻ってきた。
相変わらず荷物を置いた後は飛んで降りようとする彼女と、その首根っこを掴み、自分の隣を歩かせるシャンクス。
そんな二人を眺めていたベックマンがくくっと喉を鳴らした。

「お頭も…さっさと諦めちまえばいいのになぁ?」

誰に言うでもなくそう呟く。
世間一般的ないい女が眼中にないほどに可愛がっているのに、年が離れすぎていると頑なに彼女の想いを受け流す。
傍から見れば無駄な足掻きなのだが、そんな視線すら気付かないくらいに溺れているというのに。

「いつまで続くか…見ものだな」

シャンクスに頭を撫でられた小さな黒い舞姫が、ふわりと嬉しそうに笑っていた。

【 083.舞姫 】  シャンクス / Black Cat

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10.08.10